artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
森村泰昌「下町物語プロジェクト」2017-2019
会期:2017/11/03~2017/11/25
旧駒ヶ林保育所[兵庫県]
神戸の新長田界隈は、市内を代表する下町エリアであり、1995年の阪神・淡路大震災で激甚な被災を被った地域として知られている。この新長田を舞台に開催されたアートイベント「下町芸術祭」の一環として行なわれたのが、美術家、森村泰昌の「下町物語プロジェクト」である。展示は3つの要素で構成されている。一つは新長田界隈の下町を取材し、6名の住人の表現物や収集物(なぞなぞの看板、動物の張り子彫刻など)の展示であり、もう一つは元保育園の備品で森村が作った即興彫刻《積木組》と、街の音、ピアノ演奏、演説などによるサウンドインスタレーション《下町組曲》、そして最後は元保育園の滑り台式非常階段で、森村はこれを「イサム・ノグチの《ブラック・スライド・マントラ》に匹敵する」と評価した。これらのなかで筆者がもっとも気に入ったのは、《下町組曲》のひとつで、森村が架空の政党党首になって下町の魅力を語る「贋作“下町新党”党首演説」である。元保育園の屋上にスピーカーと椅子を設置し、下町のパノラマを眺めながら森村のメッセージを聞くと、不思議と熱い気持ちが込み上げてきた。このプロジェクトは来るべき東京オリンピックの前年である2019年まで続く予定。次の開催地や日時は不明だが、コンプリートを目指したい。
2017/11/04(土)(小吹隆文)
細江英公個展「創世記:若き日の芸術家たち」
会期:2017/10/28~2017/11/18
YOD Gallery[大阪府]
本展は、細江英公が2012年に刊行した写真集『創世記:若き日の芸術家たち』から抜粋した作品で構成された個展である。同書は1967年から75年に撮影したポートレイトをまとめたもので、土方巽、寺山修司、横尾忠則、つげ義春、草間彌生、岡本太郎など、当時の文化シーンで活躍した芸術家たちの姿を活写したものだ。作品サイズは半切(A3とほぼ同寸)で統一されていたが、草間彌生の2点だけは本展のためのニュープリントとして100×150cmの大作が用意された。作品を見ると、当然ながらみな若い。寺山修司などは競馬場の群衆に紛れているせいか、見つけるのに苦労した。つげ義春は彼の漫画に登場するような古びた木造家屋と写っているし、土方巽は舞台衣装を着て、当時彼が就いていた牛乳配達の自転車に乗った姿を捉えている。背景に見える東京の街並みも現在とは大違いだ。こうした日本写真史に残る仕事を関西で見る機会は意外と少ない。会場のYOD Galleryでは3年前にも細江の『薔薇刑』をテーマにした個展を行なっており、写真ファンにはありがたい限りだ。今後も同様の企画が続くよう願っている。
キャプテン:「坂東玉三郎」(1971)ゼラチン・シルバープリント
2017/11/01(水)(小吹隆文)
福岡道雄 つくらない彫刻家
会期:2017/10/28~2017/12/24
国立国際美術館[大阪府]
大阪を拠点に1950年代から活動してきた彫刻家、福岡道雄(1936~)。彼の仕事を展観する大規模個展が、地元の国立国際美術館で開催中だ。筆者は1990年代から福岡の作品を見るようになったので、彼のことは断片的にしか知らない。いや福岡と同世代の美術関係者にとっても、彼の仕事を体系的・網羅的に見るのはこれが初めてだろう。展覧会は、初期から2005年の「つくらない彫刻家」宣言前後までの約60年間を、全6章で時系列でたどっている。とりわけ《ピンクバルーン》など1960年代の仕事が並ぶ第2章(画像)と、真っ白な空間に1970年代から90年代の風景彫刻8点が配された第4章、《何もすることがない》などの文字を無数に刻み込んだ1990年代以降の作品が並ぶ第5章は、巧みな作品配置も奏功してたいへん見応えがあった。福岡は「反芸術」が流行した1950年代に活動を始めた作家であり、彼の創作態度には一貫して同時代の美術や美術界に対する「反」の姿勢が貫かれている。その一方で作風は時代によって大きく変化し、見ようによっては迷走と取れなくもない。迷走に次ぐ迷走の末に「つくらない彫刻家」に至るわけだが、そこには外見的な一貫性を取り繕うよりも、作家としての生き方に一貫性を求める、自己に厳しい態度が透けて見える。貴重な作品が見られたことはもちろんだが、制作活動と人生がシンクロし、ビシッと一本筋が通った作家人生を知ることができ、大いに感動した。
2017/10/27(金)(小吹隆文)
彌永ゆり子個展 イメージズオアペインティングス
会期:2017/10/24~2017/10/29
KUNST ARZT[京都府]
本展は絵画展だが、展示されている作品はキャンバスや紙に絵具で描いたものではない。パソコンのお絵かきソフトで描いた絵をディスプレイで展示しているのだ。作家の彌永はデジタル・ネイティブで、幼い頃からパソコンで絵を描いていた。彼女にとって道具が何であるかはさほど問題ではないようだ。作品の特徴は、完成した状態(静止画)だけでなく、制作過程や加筆・修正など(動画)も作品の一部として見せていること。また、作品が完成したら上書きをして、別の作品が始まることもある。つまり、明確な始まりと終わりがないのである。道具が何かよりも、こちらのほうが革新的ではなかろうか。近年、漫画業界では手描きよりもパソコンで描く漫画家が増えているという。美術界でも同様の状況が起こるのだろうか。その時、従来のジャンル分けは無効となるだろう。彌永の作品は単に物珍しいだけではなく、今後美術がどのように変容していくのかを示唆している点で興味深い。
2017/10/24(火)(小吹隆文)
プレビュー:小杉武久「音楽のピクニック」
会期:2017/12/09~2018/02/12
芦屋市立美術博物館[兵庫県]
音楽家・小杉武久は、1960年に東京藝術大学音楽学部学理科の友人たちと結成した「グループ音楽」を皮切りに、ニューヨークでの「フルクサス」メンバーたちとの活動、1969年に結成した集団即興グループ「タージ・マハル旅行団」、「マース・カニングハム舞踊団」(コンテンポリーダンス)の音楽監督など、一貫して前衛的な立場から音楽の概念を拡張する活動を続けてきた。全5章で構成される本展では、第1章から第4章までを記録や資料の展示に当て、第5章では《マノ・ダルマ》(1967/2015)や《ライト・ミュージックII》(2015)などのサウンド・インスタレーションを展示。1950年代から現在に至る活動の軌跡を約300点の作品と資料で振り返る。
2017/10/23(月)(小吹隆文)