2018年11月15日号
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artscapeレビュー

2018年09月01日号のレビュー/プレビュー

イサム・ノグチ ─彫刻から身体・庭へ─

会期:2018/07/14~2018/09/24

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

イサム・ノグチのような彫刻家・芸術家・デザイナーは、ほかに類を見ない。知られている通り、まず日本人の父と米国人の母の間に生まれたことからして異色である。20世紀の激動の時代に東洋人と西洋人の混血児で、しかも非嫡出子という出生は、さぞかし風当たりが強かったに違いない。しかし幼い頃から米国と日本を中心に世界を転々としてきた生き方をバネとし、さまざまな国や都市で文化を吸収しながら、国際的な彫刻家に大成する。しかも評価が難しい抽象彫刻で成功しただけでなく、舞台美術、家具、照明器具、陶芸、庭、公園と、活動の幅を横断的に広げた。

私はこれまでに、香川県・牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館、米国ニューヨークのイサム・ノグチ庭園美術館、札幌市のモエレ沼公園を訪れたことがある。さらに言えば、「AKARI」を製造する岐阜県のオゼキのショールームにも。特に牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館は印象深かった。ここを訪れる直前に、確か2005年に東京都現代美術館で開催された「イサム・ノグチ展」も観ていて、同じ彫刻でも置かれる環境によって良し悪しがずいぶん変わることを実感したものだ。いずれも記憶に残るのは、石の彫刻など、ノグチが壮年から晩年にかけて取り組んだ作品だった。

そのためか本展で私がもっとも目を惹かれたのは、むしろ青年期に描かれた「北京ドローイング」である。当時、26歳だったノグチは、自分のルーツのひとつである東洋の文化を彫刻家の目で改めて確かめたいと、留学先のパリからシベリア鉄道に乗って北京に赴き、画家・書家・篆刻家の斉白石から水墨画を学んだ。墨と筆を使った伝統的な手法ではあったが、ノグチが描いたものは山水画ではなく身体だ。それは細い筆で輪郭線をさらりと描いた上に、極太筆で墨線を伸びやかに力強くたどった、独特の素描だった。極太の墨線だけを目で追うと、身体から抽象絵画がふっと浮かび上がってきて、それがその後、ノグチが築いていく抽象彫刻への布石となったことがよくわかる。本展のタイトルである「─彫刻から身体・庭へ─」の「身体」とは、つまりこの身体に基づく抽象表現のことなのかと腑に落ちたのだった。

イサム・ノグチ《北京ドローイング(横たわる男)》(1930)
インク、紙
イサム・ノグチ庭園美術館(ニューヨーク)蔵 
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] - JASPAR. Photo by Kevin Noble. 


公式ページ:http://www.operacity.jp/ag/exh211/

2018/08/19(杉江あこ)

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