artscapeレビュー

2009年01月15日号のレビュー/プレビュー

井坂幸恵/bews《kamizono place》

[東京都]

鉄骨が組み上がったころに訪れる。門型フレームで、各層を吊る。最高高さ10mの中に地下1階を含め5層と高密だが、リブ柱が外部にあるため内部の狭小さを感じにくい。特に1階と地下1階では、丸鋼φ9によるメッシュ壁を耐力壁とし、光と風と視線がうまく取り入れられていた。

2008/08/30(土)(松田達)

津田直「SMOKE LINE──風の河を辿って」

会期:10月28日~12月21日

資生堂ギャラリー[東京都]

津田直の仕事に注目したのは、彼の2冊目の作品集『漕』(主水書房、2007)を見てからである。「丸子船」と呼ばれる琵琶湖を行き来していた幻の舟を、言葉と映像によってさまざまな角度から追い求めていくこの作品集は、思考を形にしていく彼の能力の高さと、写真を使いながら写真を超えていこうとする意欲を見事に表現し切っていた。そして今回、彼の新しいシリーズ「SMOKE LINE──風の河を辿って」の展示と作品集の刊行(赤々舎)によって、津田はわれわれの前に無限の可能性を秘めた新しい才能の出現をはっきりと示してくれたと思う。
資生堂ギャラリーに展示された写真群は、中国の黄山、モロッコの山間の村シケール、そしてモンゴル北部のツァーガン・ノールの3カ所で撮影されている。この地理的にも文化的にもかけ離れた3つの場所を繋いでいるものこそ「風の河」。大気の流れが澱みや結節点を作り出す、そのようなキーポイントを津田は五感を最大限に開放して選びとり、撮影した。とはいえ、彼は単純に風に揺れている草を写しとるようなことはしていない。「風の河」の行方は、そののびやかに広がる風景のイメージそのものから、われわれも心を大きく開いて察知していかなければならない。2枚の写真をセットにして横に繋いでいく、その流れを辿っていくうちに、まさに風にさらわれて空をゆくような、風景の中に体の細胞が解きほぐされて溶け込んでいくような、とても気持ちのいいトリップ状態が訪れてくる。
写真を魔術的な道具として鍛え直し、再構築していこうとする21世紀のシャーマニズム。だが宗教的な堅苦しさや強制力は微塵もなく、そこにはポジティブな自発性と、内から湧き出てくるような創造の歓びが息づいている。

2008/11/07(金)(飯沢耕太郎)

沖縄・プリズム 1872─2008

会期:10月31日~12月21日

東京国立近代美術館[東京都]

沖縄は好きな場所で、何度も訪れている。行くたびに不思議な気持ちになるのは、異文化の香りを色濃く漂わせながら、どこか懐かしい故郷に帰ったような気持ちにさせてくれることだ。沖縄の言葉(ウチナーグチ)は日本の平安時代くらいの古語の骨格を留めているという話を聞いたことがある。日本の文化、宗教などの原型がそこにあるといえるだろう。それに加えて中国との交易や第二次世界大戦後のアメリカ統治の影響によって、沖縄は一筋縄ではいかない、プリズムのように乱反射する混合文化を育てあげてきた。
「沖縄・プリズム 1872─2008」展は、そんな沖縄を舞台にした近代以後の表現を、絵画、版画、工芸、写真、映画などさまざまな角度から再構築しようという意欲的な試みである。その風土と歴史(とりわけ戦争の傷跡)に根ざしたユニークな視点が浮かびあがってくるとともに、沖縄に魅せられた「本土」出身の作家の作品を含むことで、緊張感を孕んだスリリングな表現の磁場が姿をあらわしていた。
とりわけ興味深いのは、そのなかで写真家たちの仕事が重要な役割を果たしてきたことである。木村伊兵衛の「那覇の市場」(1936)のシリーズから始まって、岡本太郎、東松照明、平良孝七、平敷兼七、石川真生、伊志嶺隆、比嘉康雄、比嘉豊光、掛川源一郎、圓井義典らの力作が並ぶ。沖縄の磁場が写真家たちに大きな刺激を与え、おおらかな生命力がみなぎる作品が次々に生み出されてきたことがよくわかる好企画だった。

2008/11/08(土)(飯沢耕太郎)

フェリックス・クラウス+今村創平/アトリエ・イマム《神宮前の住宅》

[東京都]

建築家の今村創平が、オランダのフェリックス・クラウスと協働して設計。神宮前というある種の緊張感をもった街並みに対して、メタリックな外観が独特の主張をしていた。トラックの外装に用いるアルミのコルゲートシートを利用した、スーツケースのような外観が、都心のスケール感を撹乱。4階建て、延床面積約70平米という厳しい条件だったと聞いて驚いた。外国人と日本人の感性が同居している建築のようにも感じた。 写真:阿野太一

2008/11/14(金)(松田達)

蜷川実花展──地上の花、天上の色

会期:11月1日~12月28日

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

当代きっての人気写真家による大規模な展覧会。トレードマークである目が眩むような原色の写真を撒き散らすように展示して、広い会場を見世物小屋のように仕立て上げ、活気あふれる雰囲気を醸し出していた。若い層を中心に新しい観客の開拓に成功し、同会場の入場者の記録を更新(総入場者数は61,316人)したという。作品の前に人だかりができ、グッズやカタログの売り場には長蛇の列。あまり景気のいい話題が少ない日本の写真界にとっては、久々の朗報といえるのではないだろうか。
これまで蜷川実花といえば、どうしても蜷川幸雄の娘、結婚と出産といった話題が先行し、肝心の作品についてはあまりまともに論じられてこなかったように思う。だが1990年代半ばのデビュー作(初々しいセルフ・ヌード)からまとめて作品を見直すと、彼女が写真作家として着実に力をつけ、自分のスタイルをしっかりと作り上げてきたことがよくわかる。特に最新作の「Noir」のシリーズは注目に値する。これまでも彼女の作品の基調低音となっていたグロテスク志向がより徹底され、派手で陰惨でバロック的なイメージ世界がはっきりと形をとりはじめている。荒木経惟の「エロトス」(エロス+タナトス)の正統的な後継者の地位を、完全に確立したといえるかもしれない。
次に何が出てくるかが非常に楽しみ。エネルギー全開でさらなる高みをめざしていってほしい。

2008/11/15/(水)(飯沢耕太郎)

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