artscapeレビュー

2010年04月15日号のレビュー/プレビュー

林大作 展「GAME画面物」

会期:2010/02/16~2010/02/28

neutron kyoto[京都府]

テレビゲームの映像画面を3次元に再現した陶製の作品が並んでいた。登場キャラクター、ドクロマークのビンや武器などのアイテム類、敵と戦う場面のジオラマといった、ゲームのシンボリックなモチーフを立体化した作品は、どれもそれぞれの状況イメージを即座に誘発する既視感がある。表面の仕上げの荒さが目につくのが惜しいが、すべて林自身が架空の物語を設定し、制作したものだという点が面白い。物語の脈絡に興味が湧いて、質問もつぎつぎと湧いてくる。なかでも、行動の選択肢を表示したメニュー画面や、登場人物の会話画面など、たんに文字情報だけの画面を再現したシンプルな箱型の作品が良い。ただ限られた選択肢や情報を示すという一種のサインにすぎないとも言えるが、それらはつくり手の豊かなイマジネーションをもっとも示しているものに思えた。観る者にコミュニケーションを喚起するチャーミングな要素をもっている。あえて陶芸という手法で表現することについて林自身まだ未消化な部分を抱えている様子だったが、言葉と陶の質感や色など、独自の作品世界の魅力を強めていた。今後の活動展開も楽しみだ。

2010/02/28(日)(酒井千穂)

アーティスト・ファイル2010──現代の作家たち

会期:2010/03/03~2010/05/05

国立新美術館[東京都]

とくにテーマもなく、30~50代のアーティスト7人による絵画、写真、映像を集めたアニュアル展。会期はひな祭りから端午の節句までゾロ目でそろえているが、だからといって子ども向けの展覧会というわけでもない。O JUNのキテレツな絵画は独創性で独走しているし、石田尚志の映像は、描く行為の時間性と絵そのものの無時間性の対比を際立たせている。鮮やかな色彩といいペインタリーな筆さばきといい、いまどきの絵画全開の桑久保徹の絵もいいなあ。みんな絵画だ。

2010/03/02(火)(村田真)

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瀬戸口大樹「不在」

会期:2010/03/01~2010/03/13

ビジュアルアーツギャラリー・東京[東京都]

毎年、東京ビジュアルアーツ写真コースの卒業制作の審査をしている。瀬戸正人氏、鳥原学氏、三橋純氏らと提出者全員の作品に点数をつけ、その上位30人ほどにプレゼンテーションをしてもらって最優秀作品を決める。いつもかなり面白い作品が出てくるので楽しみにしているのだが、今年は特にレベルが高かった。そこで最終的に残ったのが、今回ビジュアルアーツギャラリー・東京で個展を開催した瀬戸口大樹の作品「不在」である。
中国・四川省の少数民族の村を訪ねて撮影したカラーのドキュメントだが、チベットに近いこともあり、鹿やイノブタを生け贄に捧げるシャーマニズム的な儀式が受け継がれている。それを目の当たりにして帰国したとき、そこに確かに在ったはずの現実感が「薄れていく」ことに気づいたのだという。写真を通じてそれをもう一度甦らせようという試みが、ある意味でシャーマンの行為と同一のものであることに、瀬戸口ははっきりと気づいている。さらに、やはり中国で撮影したパソコンの組立工場の女子工員たちの写真を、アップルのコンピューターの画面に映し出した状態で撮影して同時に展示するなど、「存在」と「不在」の関係を批評的に問い直そうという意図も伺える。みずみずしい映像感覚と知的な構成力とがマッチした、なかなかスケールの大きなシリーズに仕上がっていた。
ちょっと気になったのは、現地の滞在日数を尋ねたところ、6日間という答えが返って来たことだ。わずか6日間でよくこれだけの作品をものにできたともいえるのだが、反面そのあまりの手際のよさに危惧感を覚えてしまう。手早くまとめることだけを優先すると、肝心なものを取り落とすことにもなりかねないからだ。

2010/03/02(火)(飯沢耕太郎)

城林希里香「Lines, Beyond」

会期:2010/03/02~2010/03/31

ギャラリー冬青[東京都]

城林希里香は1993年に大阪芸術大学写真学科卒業後、渡米してスクール・オブ・ヴィジュアルアーツ、ニューヨーク校で学び、現在はニューヨークを拠点として活動している。ギャラリー冬青での個展は昨年に続いて二度目。コンスタントにレベルの高い風景作品を発表し続けている写真家である。
彼女の6×6判カメラによる画面には、必ず水平線、または地平線が写り込んでいる。その「Lines」が写真と写真を結びつけるとともに、見る者の想像力を大きく伸び広げていく役割を果たす。「地平線の向こう側に大地が広がるように見えない線がつながっている。その見えない線上に私たちの知らない人々がいて、私たちの知らないところでさまざまな事が起きている」ということだ。だが、彼女の撮影のやり方は、特定の場面や出来事に意識を集中させるのではなく、どちらかといえばゆるやかに拡散させていくことをめざしているようだ。「Lines」が引かれている場所も決して厳密ではなく、画面の下部をふらふら上下している。淡いパステルトーンの色彩の効果もあって、気持ちよく、開放的な気分に誘い込まれる写真群といえるだろう。これはこれでいいのだが、「平穏な風景」をうっすらと覆っている不穏さ、微妙な違和感をもう少し強く押し出してもいいのではないかと思う。
なお、展示にあわせて冬青社から写真集『Beyond』も刊行された。展示には都市の眺めもかなりあったのだが、こちらは砂漠、海辺など自然風景が中心になっている。

2010/03/02(火)(飯沢耕太郎)

椎名誠「五つの旅の物語──プラス1」

会期:2010/02/17~2010/03/29

キャノンギャラリーS[東京都]

人気作家の椎名誠が東京写真短期大学(現東京工芸大学)の出身であることは、意外に知られていないのではないだろうか。写真歴は長く、最初に撮影したのは小学校6年生の時で、被写体は「線路工夫と父親」だったという(ただし父親は後ろ姿だけ)。1991年からは『アサヒカメラ』に「シーナの写真日記」を連載しはじめた。2009年11月号で200回を超え、同誌の連載最長記録を更新中である。
今回の展示は1980年以来の「五つの旅」の写真をまとめたもの。「チャーリーのイッカククジラ狩り」「ロシアの極北狩猟民族イーゴリさんと犬の話」「砲艦リエンタール号マゼラン海峡をいく」「チベットの聖山カイラス巡礼記」「タクラマカン砂漠『桜蘭』探検記」というテーマで、テキストをつけた写真が並んでいる。写真そのものは、あまり構図や光に頓着しないで、そこにあるものをそのまま素直に写すというストレートな記録に徹しているのだが、文章の語りの呼吸が絶妙なのでその世界に引き込まれていってしまう。その写真=物語の構築力はさすがとしかいいようがない。もう少し「写真家」としての力を高く評価されてもいいのではないだろうか。「プラス1」として、ごく最近、2010年1月の津軽半島の旅の写真が別に展示されていた。こちらも、寒さが身にしみてくるような旅の感触が、縦位置の写真と文章からじわじわと伝わってくる。なお講談社から写真集『五つの旅の物語』も刊行されている。

2010/03/03(水)(飯沢耕太郎)

2010年04月15日号の
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