artscapeレビュー
Chim↑Pom「SURVIVAL DANCE」
2011年11月01日号
会期:2011/09/24~2011/10/15
無人島プロダクション[東京都]
Chim↑Pomが調子に乗っている。もとい、ノリに乗っているというべきか。かつての荒削りな魅力はどこへやら、今回の展示は個別の作品の完成度も、それらを構成する展示の仕方も、ともに優れていたから正直驚かされた。一発逆転ホームランをぶちかますわりに空振りも多かった打撃のスタイルから、確実に出塁できる打撃法へと進化したといってもいい。さまざまな映画の銃撃シーンを集めた映像を投影したスクリーンに向けてエリイがマシンガンをぶっ放す映像作品は、銃撃音の迫力もさることながら、会場に実弾を浴びて穴だらけになったスクリーンを掲げ、その上に映像をプロジェクションしていたため、暴力的なカタルシスと甘い狂気を効果的に倍増させていた。天井裏の空間でミラーボールの回転する照明とともに新旧の《スーパー☆ラット》を見せる映像インスタレーションにしても、来場者に梯子を登らせて天上の世界を垣間見させるやり方が、なんともうまい。作品の形式的な面でいえば、前者はクリスチャン・マークレーを、後者はオノ・ヨーコをそれぞれ彷彿させるが、いずれもChim↑Pomのほうが断然おもしろいことは明らかだ。映画的編集の妙を見せるのではなく、映画というフィクションそのものを撃ち抜く暴力的な想像力。それを映像によって表現しながらも、穴だらけの布切れ一枚によって現実と接続することで、映像という自律圏にも風穴を開けてみせたわけだ。ようするに、現代アートの文脈を確実に踏まえつつ、それを一歩前進させているのである。パズルのピース(一片)に見立てた会場の壁を一部崩落させ、ピース(平和)の瓦解を象徴的に表現したり、「原爆の火」で消費文化の記号を描くなど、他の作品もいちいち心憎い。現代アートの流儀をスマートに使いこなすようになったのかと思えば、その一方で稲岡求と水野俊紀の生身の肉体を使ったバカな作品もあり、自分たちの原点を決して忘れているわけではないこともしっかりアピールしている。このバカから出発して社会や政治、あるいは美術の文脈に到達する振幅こそ、Chim↑Pomの醍醐味であり、それがバカを隠したがる現代アートに満足できない私たちの心を鷲づかみにするのである。彼らに追いつき、拮抗し、やがて鮮やかに乗り越える新しいアーティストが待望される。
2011/10/12(水)(福住廉)