artscapeレビュー

PAPER──紙と私の新しいかたち

2013年08月01日号

会期:2013/07/20~2013/09/08

目黒区美術館[東京都]

私たちの身の回りにある身近な素材である紙。この紙を用いてどのような表現が可能なのか。3人と3組のアーティスト、デザイナー、建築家たちによるアートとプロダクトを通じて、紙による表現の現在を探る展覧会である。A展示室は紙のプロダクトによるインスタレーション。ドリルデザインの「組み立て式地球儀/折り畳み式地球儀」、寺田尚樹の「テラダモケイ 1/100建築模型用添景セット」、トラフ建築設計事務所の「空気の器」が、それぞれ床面、壁面、空間を使って展開されている。B・C展示室はアート作品。鈴木康広の「キャベツの器」「木の葉の座布団」「波打ち際の本」「本の消息」、西村優子の折りを用いた作品、植原亮輔と渡邉良重の「時間の標本」などが出品されている。目黒区美術館では20年前にも紙をテーマとした企画があったとのことであるが、残念ながらそのときの展覧会は見ていないので、相対的な意味で「今の表現」がどのようなものなのかはよくわからない。しかし、この20年における技術の進歩や紙を取りまく社会環境の変化を念頭におくことで、作品の位置づけができるかもしれない。ひとつは印刷・加工技術の進化。なかでもデジタル化がもたらした影響は大きいだろう。精緻化された印刷・加工技術は、紙を用いたプロダクトを子どもの遊びから大人の楽しみへと拡張してきているようだ(もちろんそれにはデザイナーとともにプロジェクトを進めてきた福永紙工/かみの工作所や、マルモ印刷がの役割が大きい)。紙の書籍から電子書籍への転換はまだまだ途上にあり、そのインターフェースは紙のメタファーを残している。本の白いページに波の動画を投影した鈴木康広の「波打ち際の本」は、そうした紙の書籍の記憶でもある。他方で、開いた本から蝶が飛び立つ「時間の標本」は手作業による着彩と切り抜きという、極めてアナログな方法で行なわれている。西村優子の作品も手で折られた紙の帯のコンポジション。いずれの作品も、紙の手触りと手の痕跡を目に見えるかたちで残そうとしているように思われる。館内のあちらこちらにテラダモケイの小さな人たちがいる。これを探して回るのも楽しい。[新川徳彦]

2013/07/26(金)(SYNK)

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