artscapeレビュー
上原沙也加「眠る木」
2023年01月15日号
会期:2022/12/13~2022/12/26
ニコンサロン[東京都]
2020年に「The Others」で第36回東川賞新人作家賞を受賞するなど、沖縄出身の写真家、上原沙也加の作品は各所で注目を集めつつある。その彼女の新作18点を展示した個展が、東京・新宿のニコンサロンで開催された。
上原の写真に人間は登場してこない。そこに写っているのは、マネキン人形、ティッシュの箱、灰皿、バッジの群れ、作り物の人魚の像といった事物である。とりたててこれを撮ろうと決めているのではなく、沖縄の路上で目についたものに、衒いなくカメラを向けている。「THINK TWICE ABOUT THE WORLD」「DON’T WALK」など、看板や信号として文字化されたメッセージが目につく。それらがウィンドーの中のアンネ・フランクの顔写真などとともに、会場に並んでいる写真にある種の方向性を与えている。
上原がもくろんでいるのは、2020年代の沖縄の路上風景を切り取ることで、「さまざまな記号やイメージがいく層にも重なっている」様態を提示することだと思う。その試みはとてもうまくいっていて、沖縄の路上の事物が、否応なしに身に纏わざるを得ない政治性、歴史性が、写真の画面から、また複数の写真の組み合わせからも浮かび上がってきていた。それはまた、上原に強い影響を与えた、写真群をアトランダムに構成していく東松照明の「群写真」の方法論を、換骨奪胎して再構築する試みともいえる。点数は少ないが、しっかりまとまっていて、見応えのある展示になっていた。
ただ、画面から人間を除いたことについては、さらに検討の余地がありそうだ。本作には、沖縄の現実に見合ったより広がりのあるシリーズへと展開していく可能性を感じる。そこでは、人もまた重要な要素として浮上してくるのではないだろうか。
公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2022/20221213_ns.html
2022/12/14(水)(飯沢耕太郎)