artscapeレビュー
百貨店展─夢と憧れの建築史
2023年01月15日号
会期:2022/09/07~2023/02/12
高島屋史料館TOKYO 4階展示室[東京都]
1990年代、私が大阪に住んでいた頃、大丸心斎橋店といえばとても重厚な歴史的建造物だった。これを設計した建築家のヴォーリズは「メンソレータムの創業者(正しくは、メンソレータムを日本に輸入し広めたヴォーリズ合名会社の創立者のひとり)である」と、その豆情報が口々に伝えられていた。まるで西洋寺院のような荘厳な外観といい、きらびやかな装飾で覆われた天井やエレベーターホールといい、正直、ミナミにはもったいないほどの風貌を備えていた印象がある。2019年に建て替えられた際にも、ヴォーリズ建築の意匠が低層階の外観などに引き継がれたそうで、この建物がいかに心斎橋の顔として親しまれてきたのかを物語る。
本展は、日本の百貨店に建築の側面から切り込んだユニークな試みだ。大丸心斎橋店をはじめ、1931年創業当時の松屋浅草店、いまは現存しない1928年創業の白木屋日本橋店のファサード模型が会場に所狭しと並び、百貨店建築の特徴を伝えていた。振り返れば、百貨店の屋上にはいろいろな娯楽施設が存在した。遊園地のほか、驚いたのは動物園まで存在したことだ。日本橋高島屋の屋上動物園へ象がクレーンで持ち上げられる昔の記録映像を見て、その尋常ではない雰囲気が伝わった。また松屋浅草店の屋上遊園地はハリウッド映画のクライマックスシーンにも使われたそうで、米国から見ると、それは不思議な光景に映ったのだろう。
そもそも日本の百貨店は、19世紀に欧州で生まれたデパートメントストアを手本にし、20世紀初頭から始まったものだ。知られているように、三越、高島屋、伊勢丹などの母体はいずれも呉服店だった。その後、鉄道会社が駅と直結した百貨店(ターミナルデパート)を生み、呉服店系と鉄道会社系の二系統で日本独自の発展を遂げていくことになる。実は呉服店系百貨店も資金援助を通じて駅との接続を図ったところが少なくないとのことで、鉄道や地下鉄の敷設とともに駅と直結するかたちで発展を遂げたのが、日本の百貨店の大きな特徴である。それは日本が、鉄道網が非常に発達した国である証拠だろう。ちなみに欧州発の百貨店に対し、米国発の商業施設はショッピングセンターである。百貨店は館全体の売上をベースに運営するのに対し、ショッピングセンターはテナントの家賃収入によって運営するのが大きな違いだ。そんな区別さえもいままで意識していなかったのだが、本展で改めて気づいた。百貨店にとってもっとも書き入れ時となる昨年末に、その歩みを興味深く眺めた。
公式サイト:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/exhibition/
2022/12/23(金)(杉江あこ)