artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
吉村芳生 展──版画・ドローイング──
会期:2009/03/09~2009/03/28
ギャラリー川船[東京都]
吉村芳生の過去作品を発表する展覧会。70年代後半から80年代にかけて制作された版画や鉛筆画を一挙に公開した。近年の自画像シリーズと同じように、それらは対象を愚直に転写したものばかりだが、今回発表された作品を見ると、写真を細かいグリッドで区切った上で、一つひとつの升目の濃度を数字に還元し、その数値を頼りに、一つひとつ別の紙の上に描き写していくというプロセスを踏んでいることが明らかになった。デジタル写真と同じ理屈を手作業で成し遂げてしまう圧倒的な持久力こそ、若いアーティストたちは見習うべきだ。
2009/03/09(月)(福住廉)
喜びの海
会期:2009/03/07~2009/03/08
アサヒ・アートスクエア[東京都]
華道家の上野雄次とダンサーの関さなえによる公演の二日目。会場の中央に高々と組み上げられた鉄パイプのタワーに上野がよじ登り、上から順に解体してき、そのタワーの麓に置かれた黒いマットの上で関が寝たまま踊り続けるという構成。花生けとダンスのコラボレーションでありながら、両者がいずれも花生けとダンスの規範に徹底的に背き続ける潔さが、心地よい。なにしろ上野は花を生けるどころか、工事現場の解体業者よろしく、組み外した鉄パイプを次から次へと床に放り投げ、その金属の激突音が空間を切り裂くなか、ダンスの基本的な所作である「立つ」ことの美しさを放棄したかのように、関が水平的な動きを繰り返しているのだから。これはいったい何なのか。暴力的な恐怖と分類しがたい認識的な混乱を味わっていると、いつのまにか天井に移動した上野が横たわる関に向って赤いバラを落とし、しばらくすると、今度は大量の腐葉土を投入。特殊部隊のようにロープで降りてきた上野が透明なラッピングテープで土に埋まった関の身体をマットごと包み込んだところで、緊張の舞台は終了した。
2009/03/08(日)(福住廉)
UNLIMITED
会期:2009/03/01~2009/03/15
アプリュス(A+)[東京都]
遠藤一郎をはじめ、淺井裕介、泉太郎、齋藤祐平、鈴木彩香、栗原森元、栗山斉、ダビ、藤原彩人、村田峰紀、柳原絵夢の11人(組)が参加したグループ展。会場は荒川区のリサイクルセンターの一角で、高い天井と広い床面積を誇る、なんとも贅沢な空間。ただ、準備期間が短かったせいか、作品の出来は全体的に低調で、どうやら空間をもてあましていたようだ。そうしたなか、便所の便器に映像を投影した泉太郎はさすがに抜群の空間構成力を発揮していたが、もうひとり、身体を使ったパフォーマンスで気を吐いていたのが、村田峰紀。この日は、照明の当たらない空間の隅に座って、黙々とポッキーを食べ続けるパフォーマンスを披露した。ポリポリと美味しそうに食べてるなあ、と思ってよくよく見てみたら……、おい! おまえ鉛筆の芯食ってんじゃねぇか!! 口の周りの黒い汚れは、チョコじゃなくて黒鉛だった。してやられた。
2009/03/08(日)(福住廉)
泉太郎 山ができずに穴ができた
会期:2009/01/20~2009/03/09
NADiff Gallery[東京都]
泉太郎の新作展。近年熱心に取り組んでいる、複数の鏡を反射させる映像インスタレーションのほか、両手に装着したパペット人形が自分の顔に競い合ってペイントする映像などを発表し、狭いながらも濃密な空間に仕立てていた。今回の展覧会にあわせて立て続けに刊行された著作や写真集もおもしろい。
2009/03/07(土)(福住廉)
リチャード・ストレイトマター・チャン 右と言えば左
会期:2009/02/13~2009/03/07
プロジェクトスペースKANDADA[東京都]
ベトナムのアーティスト、リチャード・ストレイトマター・チャンによるレジデンスの成果発表展。作品の点数はある程度そろっているものの、レジデンスの発表展の多くがそうなりがちであるように、それぞれの作品の出来映えはあまり芳しくない。例外だったのは、ダンボールで作った木の作品《Interval 1 / Listening Tree》。幹に空けられた洞をのぞくと、暗闇の中で映像が流されていて、その手前には小さな人形が置かれているから、まるで映画館の最後尾から映画を鑑賞しているような感覚に陥る。また、別室にはコマンドNによるリサーチプロジェクトの記録映像が鑑賞できるようになっていたが、映像をそのまま見せる見せ方がはたしてどこまで有効なのか、疑問が残った。せっかく綿密な取材を繰り返したのだから、いっそ論文というかたちで公開するほうが、よっぽど鑑賞者=読者に届くのではないだろうか。
2009/03/04(水)(福住廉)