artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

南新也 展「characterize」

会期:2012/03/20~2012/03/25

アートスペース虹[京都府]

折り紙の鶴や風船、ルービックキューブ、ペットボトル、飲み物の紙パック容器、ドーナツ、籠など、身近なものをモチーフにした木彫作品が鏡の展示台に並んでいた。どれもパッと見てそれとわかるような再現なのだが、木製というせいが大きいのか、じっくりと見ていると、風船はまるでボウリングの球のような重量感あるものに思えたり、角の潰れた紙パックの容器が軽やかなイメージに見えてきたりして不思議。それもさることながらそれぞれの質感や表現されている状態が時の経過という想像をも喚起するので面白い。モノをどのように見ているのか、不安定な自分の感覚にも思いを巡らせる作品。


会場風景

2012/03/25(日)(酒井千穂)

リアリティとの戯れ -Figurative Paintings-

会期:2012/03/23~2012/04/01

なんばパークス7Fパークスホール[大阪府]

大阪芸術大学グループ出身の20~30代前半の若手画家7名(苅谷昌江、小橋陽介、町田夏生、坂本真澄、田岡和也、中嶋寿挙、小松原智史)をピックアップしたグループ展。デジタル技術の進化等によってリアルとフィクションの境界線が不明瞭になったいま、自分自身が描き出す小さな想像世界のなかにリアルを見出す傾向を「リアリティとの戯れ」と規定。そうした作風を持つ若手作家を集めたものだ。7名のなかにはもともと関西で活動していたにもかかわらず、最近はすっかり首都圏を中心に活動している作家が混じっている。彼らの最新の動向を知ることができたのが収穫だった。

2012/03/24(土)(小吹隆文)

ロベール・ドアノー「Rétrospective」

会期:2012/03/24~2012/05/13

東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]

ロベール・ドアノーといえば、なんといっても《市庁舎前のキス》(1950)だ。今回の回顧展のチラシに使われ、会場となった東京都写真美術館の外壁にも、この代表作が巨大なサイズに引き伸ばされて飾られている。だが、日本ではおそらく初めての200点を超える規模の展示を見ると、ドアノーが決していわゆる「パリ写真」の範疇におさまる写真家ではないことがよくわかる。「パリ写真」というのは、比較文化の視点から写真を読み解いた今橋映子が『〈パリ写真〉の世紀』(白水社、2003)で提起した概念で、ジャーナリスティックに垂れ流しされたパリのイメージ、すなわち「パリの男女、犬や猫、子供たちを、ユーモアや優しさを込めて映し出す」写真の総称である。ドアノーの「市庁舎前のキス」は、その「パリ写真」の典型として絵葉書やポスターなどに無数に複製され、今なお流布し続けている。
にもかかわらず、写真家としてのドアノーの本質は「パリ写真」とはかけ離れたものであることが、今回の展示を見てよくわかった。彼は「ユーモアや優しさ」どころか、シニカルな批評精神の持ち主であり、被写体をクールに突き放す醒めた視線を保ち続けた写真家だったのだ。それは「市庁舎前のキス」が普通考えられているような偶然撮影されたスナップショットではなく、『ライフ』誌の特集のための完全な演出写真であることでもよくわかる。ドアノーはこれと狙った場面を撮影するために、いわゆる「やらせ」を仕組むことに対してまったく躊躇することがない。彼は決してナイーブな写真家ではなく、むしろ経験を積んだプロフェッショナルであり、その技術に誇りさえ抱いていたことが、写真から見えてくるのだ。被写体に対する批評的な距離感がドアノーの写真の最大の特徴であり、その小気味よい職人的な映像の切れ味こそ今回の写真展の見所といえるだろう。
1980年代になって、ドアノーはDATAR(国土整備庁)の依頼で、彼のメイングラウンドであったパリ郊外をカラー写真で撮影した。特別展示されていたその写真群を見て、なんともクールで素っ気ない(同時期にアメリカの写真家たちが撮影した「ニュー・カラー」の写真を思わせる)そのたたずまいにこそ、ドアノーの地金が表われているのではないかと感じた。

2012/03/24(土)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00016907.json s 10027328

4人展──うつろう(北川安希子、塩賀史子、福村真美、山本恵)

会期:2012/03/16~2012/03/25

ギャラリー唐橋[滋賀県]

北川安希子、塩賀史子・福村真美・山本恵の4人展。彼女たちに共通するのは、植物や自然の風景に目を向けた絵画作品を制作していること。塩賀の描いた夕刻の景色、鳥取砂丘をモチーフにした福村の作品、山本の大作、北川の細やかな表現、どれも美しい作品ばかりで、移ろう季節と自然の様子の変化を丁寧に観察する作家たちのまなざしがじんわりと感じられる展覧会だった。会場は京都や大阪の画廊などに比べると広く、天窓から射し込む光の加減で作品の表情が緩やかに変わる様子も楽しめる空間。この4人の展覧会は2年前にも開催されたのだが、今後も続けていきたいという。次回も楽しみにしている。

2012/03/24(土)(酒井千穂)

六本木アートナイト2012

会期:2012/03/24~2012/03/25

六本木ヒルズ+東京ミッドタウン+国立新美術館など[東京都]

ウチの裏庭が騒がしいのでなにごとかと思って下界に下りてみたら、「六本木アートナイト」をやってるではないか。昨年は震災の影響で中止になったからな。ヒルズ方面では、歯車で回転するチェーンで「六」「本」「木」を表わしたタムラサトル、赤い靴やボタンの映像を地面に映し出した志村信裕、スクリーン上の迷路を見ながら目隠しした人を誘導するゲームの泉太郎らが出品。アリーナには赤い水玉模様の巨大な《ヤヨイちゃん》が鎮座している。いやそれにしてもスゴイ人出だな。ミッドタウンに行くと、芝生広場に提灯を並べ、中央にジャッピーを祀った祭壇が置いてある。もはやジャッピーは日本の神か。ガレリアには高さ10メートルを超すバルーン製の超巨大こけし《花子》がおっ立ってる。大きさでは《ヤヨイちゃん》に勝ったな。国立新美術館では開発好明が発泡スチロールで茶室を組み立てている。その開発と野田裕示が手がけたワークショップの成果を展示する納屋もあり、いい味出している。日没後、人通りの多い屋外で展示するという条件から、おのずと光りもの、鳴りもの、メガものばかりとなった。

2012/03/24(土)(村田真)