artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
笹倉洋平 展「グリン」
会期:2012/03/19~2012/03/31
Gallery kr f・te[大阪府]
ペンや鉛筆などで描いた夥しい数の線が、まるで蔓系植物のように捻れたり絡まりながら画面全体に広がる。時間軸を空間化する動的な作品を発表してきた笹倉洋平が約三年ぶりに大阪で個展を開催した。会場は中津にあるデザイン事務所「クレフテ」が運営するギャラリー。約16平方メートルという小さなスペースに並んでいたドローイング作品はそれぞれの展示の間隔が狭く、はじめは、詰め込み過ぎなのでは?という印象もあったのだが、一点ずつをじっくりと見ていると、作品との距離が近い分、躍動感のあるダイナミックな筆致と繊細な線の儚げな表情が際立って見える。さらにそれぞれの画面の線が増殖し、隣の画面に連なり、全体に広がっていくようなイメージを掻き立てるからおもしろい。久しぶりの発表だったが新しい感動を覚えた展覧会。今後も活動を続けてほしい作家だ。
2012/03/31(土)(酒井千穂)
栗原健太郎+岩月美穂 studio velocity展「fluctuationーゆらぎ」

会期:2012/03/31~2012/04/08
masayoshi suzuki garllery[愛知県]
masayoshi suzuki galleryにてstudio velocityの「 fluctuation (ゆらぎ)」展のオープニング・トークに参加した。1階はフィルムによるゆらぐ建築スケールの構造体が、さまざまなにまわりの環境を映しだす。地下は床の傷をランドスケープに見立てた超微細な模型である。石上純也事務所出身の若手ユニットらしく、建築とアートを架橋する作品であり、とてもフラジャイルな感覚をもつ。現在、書類審査の結果、今年のヴェネチアビエンナーレ国際建築展に参加する可能性があり、国際展のデビューも期待されている。
2012/03/31(土)(五十嵐太郎)
永原トミヒロ展

会期:2012/03/19~2012/03/31
コバヤシ画廊[東京都]
永原トミヒロの新作展。ここ数年、明るいのか暗いのか判別しない、光と闇が溶け合ったかのような幻の街並みを一貫して描いているが、今回の個展で発表された絵画には鏡のような水面が前面化してきた。苗植え前の田んぼなのだろうか、広い水面には後景の建物が明瞭に反映している。この対称的な図像が、窓も入り口も見当たらない建物で構成された無人の街並みに、独特の気配をもたらしていたようだ。たしかな対象として認知することはできないにせよ、なにかの存在をどこかで感じ取る想像力。今日的なリアリティーが立ち上がってくるのは、この点である。
2012/03/30(金)(福住廉)
竹内公太─公然の秘密

会期:2012/03/17~2012/04/01
XYZ collective(SNOW Contemporary)[東京都]
「指差し作業員」の衝撃は、フクイチの映像を見ている私たちを、彼があくまでも一方的に指し示したことに由来していた。「見る主体」が、「見られる客体」によって逆襲されたと言ってもいい。だからこそ、「見る」側に安住している者にとって、その衝撃は大きかったのである。ところが、今回の個展で発表された作品のなかで、どうにもこうにも理解に苦しんだのは、アーティストと来場者が直接言葉を交わすことができる糸電話の作品だった。なぜなら、本来一方的だったはずの表現を、観客参加型の作品によって、わざわざコミュニケーションという表層的な次元に回収してしまったように見受けられたからだ。むろん、糸電話という対話の形式が完全な意思疎通を実現するわけではないし、逆に対話によってすら理解し合えない領域に来場者を突き落とすこともないわけではないだろう。とはいえ、この糸電話が「指差し作業員」の本質的な暴力性を削ぎ落としてしまっていたことは否定できないように思う。それが、芸術という不可解な価値の真髄に触れていたように感じられたことを思うと、なおさらいっそう悔やまれる。
2012/03/30(金)(福住廉)
MOTOKO「田園ドリーム」

会期:2012/03/28~2012/04/10
銀座ニコンサロン[東京都]
MOTOKOは2003年に刊行の『Day light』(ピエブックス)におさめた森の写真を撮影するために、初めて滋賀県を訪れた。琵琶湖の周辺の「里山の荒廃によって急速に失われていく日本の原風景」に強く魅せられた彼女は、2006年から取材・撮影し始めた。最初の頃は里山や棚田の風景、民間行事、祭りなど「ハレの日」の情景を中心に撮影していたのだが、次第に農家の暮らしに興味が移り、2008年から本格的にルポルタージュを開始する。その過程で、若手農家集団「コネファ」との協力関係ができて、展示やイベントを精力的にこなしてきた。現在は「田園ドリームプロジェクト」という名称で活動を展開している。
MOTOKOの写真は、まさに「日本の原風景」というべき琵琶湖の湖岸地域の自然、農業、祭事などを総合的にとらえており、気持ちよく目に飛び込んできて淀みがない。この地域の暮らしぶりを、明快なイメージでいきいきと浮かび上がらせているといえるだろう。ちょっと気になったのは、展示されている写真にキャプションがまったくなかったこと。むろん、写真家が被写体をどんな切り口で撮影しているのかを見せるのが眼目だから、余分なテキストを省くという選択はありえる。だが、たとえば祭りの演目、料理など生活の細部の情報は、観客にとって重要な意味をもつのではないかと思う。写真とテキストが一体化した展示を考えてもよかったのではないだろうか。
2012/03/30(金)(飯沢耕太郎)


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