artscapeレビュー

郷津雅夫「WINDOWS」

2012年04月15日号

会期:2012/03/09~2012/04/07

KOKI ARTS[東京都]

郷津雅夫は東洋美術学校を卒業後、1971年に渡米し、ニューヨークを拠点に活動してきた。近年はニューヨーク郊外に移り、石彫作品を中心に発表している。それ以前は、取り壊された家の窓枠を周囲の煉瓦ごと組み立て直してインスタレーションする作品を制作していたが、その発想の元になったのが今回展示された「WINDOWS」のシリーズである。渡米直後からニューヨークのダウンタウンの窓にカメラを向け、パレードを見る人々を撮影したこのシリーズは、郷津の初期の代表作であり、今見ても色褪せない魅力を発している。
異邦人である郷津にとって、ニューヨークの「窓」は、文字通り目の前で閉じられているように感じていたに違いない。それらが大きく開け放たれ、住人たちが姿を現わす瞬間を撮影することは、心が大きく弾むような歓びを与えてくれたのではないだろうか。どちらかといえばあまり裕福ではない人々が多く住む地域で撮影しているにもかかわらず、そこには彼らとのポジティブな心の交流が感じられるのだ。
「WINDOWS」のシリーズは、1980~90年代にアメリカと日本で何度か展示され、『IN NEW YORK』と題されたアーティストブックとして、郷津自身の手で三度にわたって出版された。今回展示された大判ヴィンテージ・プリント(20×16インチ)には、その頃の空気感が凝縮して封じ込められているように見える。あらためて高く評価してよい作品ではないだろうか。

2012/03/09(金)(飯沢耕太郎)

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