artscapeレビュー

清家冨夫「OVERLOOK」

2012年04月15日号

会期:2012/03/02~2012/04/28

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

清家冨夫は日本よりはむしろ欧米諸国で高い評価を得ている写真家。1980年代に発表した女性ポートレートのシリーズ「ZOE」を皮切りに、イギリス・ロンドンのハミルトンズ・ギャラリーやアメリカ・カーメルのウェストン・ギャラリーなどで個展を何度も開催してきた。その詩情あふれる、高級感を漂わせる作品にはファンも多い。日本人には珍しく、プリントで勝負できる写真家のひとりといえるだろう。
今回の新作は、これまでモノクローム・プリントで作品を発表してきた彼のイメージをくつがえす意欲作である。デジタル、カラー、インクジェット・プリントという新たなジャンルに踏み込もうとしている。タイトルが示すように、画面はやや高い場所から海辺を「見渡す」視点で統一されている。その3分の2は海面が占め、残りは砂浜だ。海は季節や天候の変化によって、金属的な輝きを発したり、シルクの布のように柔らかくうねったりしている。その海面と砂浜とのちょうど境界のあたりに、人や犬の姿がぽつりぽつりと見える。その距離の取り方が絶妙で、突き放しているわけでも感情移入しているわけでもない、とてもきれいなシルエットとして処理されているのが目に快い。カラーといってもよくコントロールされたモノトーンの画面なので、あまりうるさい感じはなく、いかにも清家の作品らしく静謐な雰囲気を保っている。完成度の高いシリーズとして成立しているのではないだろうか。
撮影地は清家がよく滞在しているイギリスのブライトン・ビーチだという。ハミルトンズ・ギャラリーから、限定1,000部で同名の写真集も刊行されている。

2012/03/28(水)(飯沢耕太郎)

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