2018年06月15日号
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artscapeレビュー

2012年04月15日号のレビュー/プレビュー

鞍田崇×服部滋樹『〈民藝〉のレッスン──つたなさの技法』出版記念トーク

会期:2012/03/01

MEDIA SHOP[京都府]

20世紀初め、柳宗悦が先導者となり展開した民藝運動。近年、若い世代の人々からも関心が寄せられている。今年一月末に出版された『〈民藝〉のレッスン──つたなさの技法』(フィルムアート社)は、「なぜいま民藝なのか?」というテーマのもと、料理研究家やデザイナー、建築家、哲学者、文化人類学者など、さまざまなフィールドで活躍する人々が、民藝についてそれぞれの視点から論じている本。この編著者であり哲学者でもある鞍田崇さんと、ゲストの服部滋樹さん(graf代表)による出版記念トークが開催された。会場は立ち見の人も出るほどの超満員の状態。約2時間にわたり、「今の時代を生き抜くためのヒント」が民藝にはあるのではないかという切り口でさまざまな話が繰り広げられた。民藝運動の理念やその実践、柳宗悦の思想など、ある程度の知識がなければ理解しにくい内容もあったが、消費と生活速度、自らの暮らしに対する「愛おしさ」、生活空間と身体感覚、モノに対する考え方など、さまざまな関係性から問題を提起しつつ民藝を再考、意見を交わし合う二人のトークはもっと考えてみたいという意識を喚起するもので刺激があった。4月から月に一度のペースで鞍田氏がホストとなり、毎回関連ゲストを迎えてのレクチャーが行なわれる予定。

2012/03/01(木)(酒井千穂)

石川直樹「やがてわたしがいる場所にも草が生い茂る」

会期:2012/02/29~2012/03/06

銀座ニコンサロン[東京都]

銀座ニコンサロン、新宿ニコンサロン、大阪ニコンサロンを会場に連続企画展「Remembrance3.11」が開催された。8つの写真展と5つのシンポジウムで「カタストロフィの意味を多面的な角度から省察」しようとする意欲的な企画だ。震災後1年ということで、さまざまなイベントが開催されているが、人が集まりやすいニコンサロンという会場の利点を活かした、とてもいいプロジェクトだと思う。
その第一弾として開催されたのが、この石川直樹展(大阪ニコンサロンに巡回、3月22日~28日)。石川は震災後2日目に青森県八戸から被災地に入り、岩手県沿岸部を南下して生々しい状況を撮影した。その後6月、9月、今年の1月と都合4回現地に入り、定点観測的に撮影を続けている。いつものように撮影、プリントの技術的な処理の甘さが目につくが、とにかく思考より先に体が動くという行動力を発揮しているのがいかにも石川らしい。展示の最後に、岩手県大船渡市三陸町で毎年1月15日に行なわれる「スネカ」という行事の写真が並んでいた。秋田の「ナマハゲ」のような異界の神が人里に降りてくる行事だが、このような民間儀礼への着目も、東北のルーツを掘り起こす試みとして、彼の勘所のよさを示している。
石川の展示を皮切りに笹岡啓子、新井卓、吉野正起(以上、銀座ニコンサロンと大阪ニコンサロン)、和田直樹、田代一倫、鷲尾和彦、宍戸清孝(以上、新宿ニコンサロンと大阪ニコンサロン)の個展が開催される。宮城県仙台市在住の宍戸を除き、地元の写真家がいないのが少し気になるが、その成果が期待できそうだ。

2012/03/01(木)(飯沢耕太郎)

生誕100年 ジャクソン・ポロック展

会期:2012/02/10~2012/05/06

東京国立近代美術館[東京都]

日本では初の本格的なポロックの回顧展。20歳前後の表現主義的な人物像から次第に形態が崩れ、色彩と線による抽象を経て、いわゆるポロックらしいポーリング(絵具を注ぎ込む技法)を含む「アクション・ペインティング」にいたるまで、相当数の作品が展示されている。なぜ、いかにしてこのような作品にいたったかがよくわかる構成だ。これは期待以上にいい展覧会だ……と思ったとたん、肩すかしを食う。最盛期の視界を覆うようなポーリングの大作がわずかしか来ておらず、すぐに具象的形態が復活し、叙情的ともいえる晩年のスタイルに移行していくからだ。あれれ? って感じ。やはりポロックといえば、MoMAにあるような幅5メートルを超す大作を1点でもいいから見たかったなあ。しかも今回唯一の大作と呼べる《インディアンレッドの地の壁画》はなんと、アメリカの天敵イランのテヘラン現代美術館からの出品だという。同展の「評価額200億円!! 門外不出、伝説の大作」の惹句はこの作品を指す(たしかにすばらしい作品だと思うが、イラン人はこの“アメリカの英雄”の絵をどう評価しているのだろう? もういらんとか)。ともあれポロックの作品は評価額が高騰しすぎたため、もはや大作は借りられなくなってしまったということだ。今回はそんな困難な状況のなかでよく健闘したほうだと思うが。展示の最後に、これは最近の流行なんだろう、イーストハンプトンの納屋を改造したポロックのアトリエが再現されていた。足下には絵具だらけの床の写真が敷いてあってなかなかリアルだ。ところで、同展では「アクション・ペインティング」という用語は使われていない。誤解を招きやすいからだろうけど、もはや死語? そのかわり多用されているのが「ポード絵画」。

2012/03/02(金)(村田真)

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国際交流基金巡回展「3.11─東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」

会期:2012/03/02~2012/03/18

東北大学 都市・建築学専攻仮設校舎 KATAHIRA10[宮城県]

筆者が監修した「3.11─東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」の仙台展がスタートした。50組以上のプロジェクトを紹介するパネル、ドローイングや多くの模型、ダンボール家具などの実物のほか、地元枠の追加展示も入り、全体としてはかなりのヴォリュームに膨んだ。会場は、震災を受けてつくられた東北大学の仮設校舎の1階である。記者会見は、仙台駅からの交通の便が悪いところなので、プレスが集まるか心配だったが、おかげで会議室はいっぱいになった。半分以上は東京から来ていたようで、メディアの注目が高いことがうかがえる。こうした世界巡回展の最初は、東京で開催するのが普通だが、あえて被災地である仙台で行なったことは有意義だろう。遠くからこの展示に訪れた人も、さらに足をのばせば、実際に津波の被害を受けた仙台平野を直接見ることができるからだ。

2012/03/02(金)(五十嵐太郎)

森まき「IN MY NATURE」

会期:2012/02/27~2012/03/03

森岡書店[東京都]

森まきは、昨年横浜のBankARTで開催した「ポートフォリオを作る」というワークショップの受講生のひとり。その頃から写真の撮影、プリントのセンスのよさと、手づくりの写真集にまとめていくグラフィック的な処理の能力は際立っていた。彼女のように、意欲的に個展を開催していく受講生が出てくるのはとても嬉しい(3月30日~4月16日にはUPフィールドギャラリーで個展「凛として迷子」を開催)。
森岡書店での個展に出品された作品は、街で折りに触れて目についた光景を切りとったものだが、そこには「これを撮りたい」「これをプリントして残すべきだ」という意志がきちんと表われていて、一枚一枚の写真が気持ちよく目に飛び込んでくる。会期の最終日に森とギャラリー・トークをすることになって、そのために送られてきた自伝的な文章を読み、彼女の生い立ちが写真を撮ったり発表したりするときの「確信」につながっているのではないかと思った。森は幼少期に両親と離れて広島の祖父母と一緒に暮らしていた。祖父は画家であり、その制作過程を目にしているうちに「何も無いところに形ある世界を創れることを知った」のだという。6歳で広島を出て両親の元に戻ると、今度はピアノを習い始める。ピアノの腕前は相当のもので、周囲は誰もが音大に進むと思っていたのだという。
こういう幼少期の原体験は、写真に限らず制作行為を続けるにあたってとても大事になる。ものをどんなふうにつくり上げていくのかという基本的なプロセスを、身体的に理解しているということだからだ。それほどキャリアを積んでいないにもかかわらず、森の写真が「MY NATURE」の表現としてきちんと成立しているのはそのためだろう。ただ、これから先が難しい。センスのよさだけではすぐに壁にぶつかってしまう。次はより深い覚悟と思考力(哲学)が問われてくるはずだ。

2012/03/03(土)(飯沢耕太郎)

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