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田村彰英「夢の光」

2012年09月15日号

会期:2011/07/21~2012/09/23

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

田村彰英は写真の旨味をよく知っている写真家だ。被写体を見つけだす鋭敏なアンテナを備え、それを的確な、だが時に思いがけない手法とテクニックで作品に落とし込んでいく。けっして派手な印象を与える作家ではないが、そのいぶし銀の作品は高度に練り上げられ、玄人筋を唸らせる魅力を発している。そんな田村の1960年代後半以来の代表作、115点を一堂に会する今回の展示を楽しみにしていた写真ファンも多いのではないだろうか。
1960~70年代前半にかけて、米軍基地をどこか抒情的なブレや揺らぎの効果を活かして撮影した「BASE」(1966~70)から始まり、初期の代表作と言える定点観測写真のシリーズ「家」(1967~68)と「道」(1976~81)、田村のスタイルを確立した「午後」(1969~81)、4×5インチ判のカメラでややズラして撮影した2枚の写真を組み合わせた意欲作「湾岸」(1983~92)、8×10インチ判カメラによる哀感のこもった東京の下町のシリーズ「赤陽」(1996~97)、折りに触れて撮影した非日常的な光景のコレクション「名もなき風景のために」(1977~2011)、そして再び新作の「BASE 2005-2012」に回帰する展示構成は見事というしかない。観客は会場を巡るうちに、田村とともにじっくりと写真の旨味を味わうことができるはずだ。
彼の意欲がまったく衰えていないことは、メカニックな米軍戦闘機をまるで少年のようなまなざしで見つめ返す「BASE 2005-2012」(映像作品も含む)だけでなく、「名もなき風景のために」のパートに展示された、東日本大震災後に撮影された陸前高田の風景にもよく表われている。「被災地に降り注ぐ光り」を前にして「困難と混乱のまま、何も解決出来ない苛立ちの感情」を覚えたと田村は書いている(「〈夢の光〉に寄せて」『eyes』2012 vol.74)。一見クールに見える田村の写真のたたずまいの奥に潜む、エモーショナルな熱気をあらためて感じとることができた。日本カメラ社から、カタログを兼ねた写真集も刊行されている。

2012/08/03(金)(飯沢耕太郎)

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