artscapeレビュー

富士山イメージの型

2015年03月15日号

会期:2015/01/17~2015/07/05

イズフォトミュージアム[静岡県]

今日は静岡県の美術館をハシゴ。初めに訪れたのは三島駅から富士山の方角へ無料シャトルバスで20分ちょっと、クレマチスの丘。ベルナール・ビュッフェ美術館にヴァンジ庭園美術館……だれの趣味で集めたのか知らないけれど、それらのコレクションを反面教師とするかのような意欲的な企画展を開いてる。まずはフォトミュージアムへ。富士の裾野(正確にいうと愛鷹山の裾野か)に位置する美術館としては避けて通れない、いやむしろ汲めども尽きぬモチーフというべき富士山に焦点を当てた展示。第1部では幕末以降、写真の導入により富士山のイメージがいかに定着してきたかを探り、第2部では、東京帝大で寺田寅彦に学び、御殿場に私設の雲気流研究所を設けて富士山にかかる雲の定点観測を行なった阿部正直博士の写真やスケッチを紹介している。おもしろいのは第1部だ。開港後の横浜では、外国人の土産物として日本の風景や風俗を写した「横浜写真」が人気を博し、海外に「フジヤマ・ゲイシャ」的な日本の定型イメージを植えつけたという。はて、横浜写真にそんなに富士山が写っていたっけと思ってよく見ると、なるほど、どの写真にも背景にちゃっかり富士山が「描かれ」ているではないか。以後、富士山は記号化され日本のシンボルとして内外に定着していくのだが、皮肉なのは第2次大戦中、霊峰として戦意発揚のプロパガンダに使われた富士山は、一方で、太平洋を北上してきた米軍の爆撃機には恰好の目標になっていたこと。その雄姿が日本人の心の支えになった反面、図体がデカすぎて標的にもなっていたのだ。この罪つくりな山塊にいっそう愛着が湧いてくる。

2015/02/07(土)(村田真)

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