2018年06月15日号
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artscapeレビュー

木野彩子レクチャーパフォーマンス ダンスハ體育ナリ? 其ノ弐 建国体操ヲ踊ッテミタ

2018年06月01日号

会期:2018/05/12

聖徳記念絵画館[東京都]

明治期に美術界では「書は美術なりしか?」という論争があったが、舞踊界では「ダンスは芸術か、体育か?」という問いかけがあるそうだ。現状では芸術ではなく、体育に組み込まれているらしいが、そのことを戦前の「建国体操」を復元することで振り返り、ダンスと体育の差異を探ってみる試みだ。講師の木野彩子は、お茶の水女子大学の舞踊教育学科を出て保健体育の先生をやっていたダンサーというから、まさに芸術と体育を股にかけてきた人。そういえば大野一雄も長く体育教師をやっていたっけ。

会場は明治神宮外苑の聖徳記念絵画館の会議室だが、絵画館前で待ち合わせ、バスガイド姿の木野が建設中の国立競技場や建国記念文庫をザッと案内。神宮外苑にはご存知のように、いま建て替え中の巨大な競技場をはじめ、野球場、ラグビー場などスポーツ施設が整備され、また絵画館には、明治天皇と皇后の事績を記録した80点の絵画が常設展示されている。この外苑で戦時中、学徒出陣の壮行会が行われた。なぜここを会場に選んだかが徐々にわかってくる。では館内へ。

会議室では、学ランに着替えた木野がダンスと体育、体育と神宮外苑、体操ブームと戦争との関係などについてレクチャー。日中戦争が始まった1937年に成立した「建国体操」を復元し、木野が模範演技。その後みんなで踊ってみた。はて、体操は「踊る」というのかな?  動きは空手みたいに拳を突き出す動作が多く、戦闘的な印象だ。ダンスと体操は身体を動かすという点では同じだが、ダンスがみずからの自由意志で動くのに対し、体操は全員が決まった動きを強要される点で決定的に異なり、むしろ戦闘訓練に近いのではないか。ほかにも「日本体操(やまとばたらき)」という創作体操もあって、「みことのり」「いやさか」「みたましずめ」「天降り」などの動作があるのだが、動きがほとんどなく声を出すだけで、身体訓練というより精神的な鍛錬を目指しているのではないかとのこと。このように戦争中に体操ブームが起こったのは、1940年に予定されていた東京オリンピックが中止になったからだそうだ。

重要なのは、体操が国家の必要により身体を鍛えるのに対して、ダンスは国家や社会の要請から脱していくことに本質があるのではないかとの指摘。何年か前、深夜クラブでのダンスが禁止されて問題になったが、国家は国民の身体を統制したがるのだ。最後に木野は1964年の東京オリンピックを見た杉本苑子の文章を朗読した。「二十年前のやはり十月、同じ競技場に私はいた。女子学生のひとりであった。出征してゆく学徒兵たちを秋雨のグラウンドに立って見送ったのである。オリンピックの開会式の進行(行進?)とダブって、出陣学徒壮行会の日の記憶が、いやおうなくよみがえってくるのを、私は押さえることができなかった」。2年後にはまた東京オリンピックが開かれる。

2018/05/12(村田真)

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