artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

神村泰代展「黙祷 silent prayer」

会期:2016/07/12~2016/07/17

アートスペース虹[京都府]

展示室には約50個の金色のオルゴールが天井から吊られていた。壁面には造花を刺したオルゴールも数台あるが、これは装飾といった感じ。オルゴールを避けながら奥へと進むが、間隔が狭いので時々当たってしまう。しかし、振り子のように揺れるオルゴールも、それはそれで音楽的だ。オルゴールのねじを巻いてみたが、音はしない。櫛歯の部分をずらして、シリンダーと接触しないよう細工されているのだ。どうやら1個だけ音の出るオルゴールがあるらしい。では、その1個を探し出すのが本展のテーマなのか。否、無音を聞くこと、沈黙の時間を黙祷と見なし、小さな祈りを捧げることが本展のテーマなのだ。唯一音が出るオルゴールは希望を象徴しているらしい。だとすれば、その1個を探し出すことも、あながち間違いとは言えないのかも。そんな思考の堂々巡りをしながら本展を楽しんだ。

2016/07/12(金)(小吹隆文)

ヒデとサッコのアトリエショウ

会期:2016/07/07~2016/09/03

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

*キャンプ合宿は、島ヶ原温泉・やぶっちゃの湯[三重県]

画家の田中秀和と栗田咲子が、ギャラリー内にアトリエを移設して公開制作を実施(その前にプレイベントも)。途中でキャンプ合宿(一般の方も有料で参加できる)を行ない、8月に展覧会で成果を発表する。それが本展の概要だ。筆者が取材したのは前期の公開制作のみ。しかも田中は仕事と掛け持ちのため不在という、中途半端な状態だった。それでもこの企画を取り上げたのは、制作現場を見たいというシンプルな欲求もさることながら、会場に漂うリラックスした雰囲気が気に入ったからだ。そこには、アーティスト(つくる側)と観客(見る側)の区別が曖昧で、美術業界のシステムから解き放たれた空間があった。既存のシステムを否定することなく、オルタナティブな価値観を提示すること。そこに本企画の意義がある。

2016/07/07〜07/09(前期 公開制作)
2016/07/16〜07/17(キャンプ合宿「野営芸術」)
2016/07/21〜07/31(中期 公開制作)
2016/08/20〜09/03(後期 成果発表展示)

2016/07/08(金)(小吹隆文)

デトロイト美術館展 太西洋を渡ったヨーロッパの名画たち

会期:2016/07/09~2016/09/25

大阪市立美術館[大阪府]

メトロポリタン美術館やボストン美術館と並ぶ、アメリカ屈指の美術館のひとつ、デトロイト美術館。同館が誇るコレクションから、近代ヨーロッパ絵画の名品52点を紹介しているのが本展だ。その内容は、「印象派」、「ポスト印象派」、「20世紀のドイツ絵画」、「20世紀のフランス絵画」の4章から成り、19世紀後半から20世紀前半のヨーロッパ美術の流れがコンパクトにまとめられている。ドガ、ルノワール、ゴッホ、セザンヌなど複数の作品が見られる作家も多く、特にピカソの7点は見応えがあった。……などと褒め言葉を書き連ねてみたが、筆者が興味をそそられたのはそこではない。デトロイト市が財政破綻し、コレクション売却の危機に見舞われた美術館が、そのコレクションで企画展をパッケージして海外に売り込み、延命を図った経緯のほうである。少子高齢化が進む日本でも、近い将来、財政破綻する自治体が次々に現われるだろう。そのとき、日本の美術館はどのように生き残りを図るのか。今から具体策を考えておいたほうがいと思う。

2016/07/08(金)(小吹隆文)

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ダリ展

会期:2016/07/01~2016/09/04

京都市美術館[京都府]

20世紀のシュルレアリスムを代表する芸術家サルバドール・ダリ。本展は、日本では2006年以来の大規模展であり、ガラ=サルバドール・ダリ財団(フィゲラス)、ダリ美術館(フロリダ)、国立ソフィア王妃芸術センター(マドリッド)の全面協力を得て、初期から晩年に至る約200点が集結している。いわば決定版というべき機会だ。なのに、展覧会を心から楽しめない自分がいる。どうしてだろう。ダリがいつの時代も器用に話題作をつくり続けてきたからか、タレントばりのセルフ・プロモーションが気に食わないのか、すでに何度も作品を見てきたので既視感があるのか。いずれにせよ、問題の本質はダリではなく、自分の思い込みにある。ピカソや岡本太郎などもそうだけど、メディアの露出が多い芸術家を、その影響抜きに評価するのは難しい。そんな筆者が本展で気に入ったのは、初期作品が並んだ第1章。そこには印象派や未来派の影響を受けた作品が並んでおり、若きダリが時代の流行を一生懸命学んだ形跡がうかがえる。「この人、本当はとても生真面目な人なのかな」。そんな気がしてダリを身近に感じたのだ。

2016/06/30(木)(小吹隆文)

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Matthew Fasone「Excavation」

会期:2016/06/21~2016/07/03

Art Spot Korin[京都府]

大阪在住のアメリカ人作家マシュー・ファソーン。彼は路上で拾った段ボールや印刷物などを素材にして、アッサンブラージュ作品を制作している。アッサンブラージュという近頃あまり聞かない用語を使ったのは、個展会場のテキストにそう書いてあったからだ。実際彼の作品はアッサンブラージュそのもので、そこにアレンジを加えるとか、現代的な要素を折衷するということはない。つまり、モダンアートの系譜に忠実な作風なのである。では作品が古臭いかというと、全然そんなことはない。静かな詩情をたたえた作品には時流を超越した美が宿っており、むしろ普遍的というべきであろう。ギャラリー巡りをしていると、十年一日のごとく同タイプの作品を発表し続けているベテランと出会うことがある。その作風に説得力を見出せる場合は良いが、見出せなければ、「スタイルが古い」とか「マンネリ」の一言で片づけられてしまうだろう。でも本展を見て、それは違うと思った。スタイルの如何に依らず、フレッシュな感性が息づいているか否か。すべてはそこに帰結するのだろう。

2016/06/28(火)(小吹隆文)