artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

KUO Chih-Hung(郭志宏) 個展

会期:2016/07/16~2016/08/14

MORI YU GALLERY[京都府]

郭志宏は1981年台湾生まれの画家である。私は彼のことをまったく知らなかったが、資料によると台北で学んだあと、ドイツに渡って活動しているようだ。本展では山を描いた6点の新作を出品していた。それらに共通するのは、風景を複数の視点と方向から描いていることと、筆致が部分ごとにバラバラで、あえて非統合に画面を構成しているように見えることだ。これらにより、作品は具象画と抽象画を折衷した雰囲気を持つ。また、どの作品も抜けが良いというか、余白や薄塗りの活かし方が絶妙だ。このあたりは伝統的な東洋画の影響があるのかもしれない。今回の6点しか知らないので断言はできないが、気になる作家だった。画廊が今後も取り上げてくれると良いのだけど。

2016/07/23(土)(小吹隆文)

プレビュー:あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ

会期:2016/08/11~2016/10/23

愛知芸術センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか、豊橋市内のまちなか、岡崎市内のまちなか[愛知県]

3年に1度、愛知県で開催される現代アートの祭典。3回目の今回は芸術監督に港千尋を迎え、「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」をテーマに、国内外100組以上のアーティストによる国際展、映像プログラム、パフォーミングアーツなどが繰り広げられる。またプロデュースオペラ「魔笛」の公演も行なわれる。テーマの詳細は公式サイトで調べてもらうとして、今回の大きな特徴は、豊橋市が会場に加わりますます規模が拡大したこと、キュレーターにブラジル拠点のダニエラ・カストロとトルコ拠点のゼイネップ・オズらを招聘し、参加アーティストの出身国・地域が増えたことなど、拡大と多様化を推し進めたことが挙げられる。この巨大プロジェクトを、港を中心としたチームがどのようにハンドリングしていくかに注目したい。個人的には、豊橋市が会場に加わることを歓迎しつつ、酷暑の時期に取材量が増えることにビビっているというのが正直なところ。前回は1泊2日で名古屋市と岡崎市を巡ったが、今回は1日1市ずつ3回に分けて取材しようかなと思っている。

2016/07/20(水)(小吹隆文)

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プレビュー:ヨコオ・マニアリスム vol.1

会期:2016/08/06~2016/11/27

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

神戸の横尾忠則現代美術館には、横尾自身が創作と記録をのために保管してきた大量の資料(写真、印刷物、アイデアスケッチ、原稿、絵葉書、レコード、蔵書など)が預けられている。それらに光を当て、調査の過程と成果を公開するのが本展だ。例えば彼が1960年代から書き続けている日記と作品の関係、第三者に価値を見出されて作品となった、絵具がのった紙皿やペーパーパレット、少年時代から憧れてきた郵便と作品の関係などが、資料と作品を並置するかたちで紹介される。横尾に関する膨大な資料群は同館ならではの特徴であり、このような企画が長らく待たれていた。展覧会名からも分かる通り、本展はシリーズ化される予定だ。今後調査が進めば、新たな横尾忠則像が打ち出されるかもしれない。

2016/07/20(水)(小吹隆文)

大原治雄 写真展 ~ブラジルの光、家族の風景~

会期:2016/06/18~2016/07/18

伊丹市立美術館[兵庫県]

ブラジルで高く評価されている写真家、大原治雄(1909~1999)。彼は17歳の時(1927)に神戸港からブラジルに移住し、南部パラナ州ロンドリーナでコーヒー農園を経営しながら、アマチュアカメラマンとして活動した。作品の多くは家族や親戚、農作業、身近な風景を撮ったもので、気取りのなさ、素朴さ、率直さが大きな特徴だ。第三者に見せることをあまり意識していなかったのではないか。またそれらは、20世紀前半の日系移民の生活や、開拓地の様子がわかる一級の民俗資料ともいえる。大原は1950年代になると、身の回りの道具をモチーフにした抽象的な作品も手掛けるようになった。しかし、そうした作品はほかの写真家も手掛けており、彼だけの表現とは言えない。やはりこの人は家族や身近な風景を撮った作品が素晴らしい。その意味で本展は、アマチュアリズムの長所が凝縮した展覧会と言えるだろう。

2016/07/17(日)(小吹隆文)

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辰野登恵子の軌跡 イメージの知覚化

会期:2016/07/05~2016/09/19

BBプラザ美術館[兵庫県]

一昨年に急逝した辰野登恵子(1950~2014)の業績をたどる展覧会。約70点の作品を前後期に分けて展示しているほか、映像や資料も紹介されている。筆者は1990年前後に辰野作品と出合ったため、当時の作品に愛着を覚えている。また、1970年代のミニマルな作品も見たことがあるが、2000年以降は詳しく知らない。彼女の作品は関西で見る機会が少なく、本展を知ったとき、ようやく全貌がわかると喜んだ。いざ展示を見ると、油彩画と版画がほぼ五分五分で並んでおり、辰野がいかに版画を重視していたかがわかった。また、版画作品の質感が、まるで油彩画のように重厚であることにも驚かされた。そして何より注目すべきは、本展出品作のほとんどが関西在住の個人コレクターの所蔵品であることだ。関西にこんな目利きがいたとは知らなかった。そしてよくぞこれだけのコレクションを形成してくださった。今後も積極的に公開してほしいが、これだけの規模の展示は滅多にないだろう。それだけに本展は貴重であり、後期も必ず見に行こうと決意を新たにした。

前期:2016/07/05〜08/07
後期:2016/08/09〜09/19

2016/07/15(金)(小吹隆文)

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