artscapeレビュー

2014年09月15日号のレビュー/プレビュー

谷本研、中村裕太 「タイルとホコラとツーリズム」

会期:2014/08/14~2014/08/24

Gallery PARC[京都府]

夏の京都の地蔵盆。33のホコラの写真とタイルが吊るされた竹で組んだ盆棚のインスタレーションと畳のスペースで、ギャラリーはまるで縁日のよう。ホコラとはお地蔵さんが収まっている小さな社のことで、写真は小さなホコラ風に額装されていた。タイル張りのホコラを見たのがこの展覧会のきっかけだったそう。結果的に季節感が取り入れられたのだと思うが、この清々しさは居心地が良い。
京都市内のフィールドワークがベースになっていて、作家の視線の先にあるものに対して、見る側も全く知らないものや場所ではない、ある程度の共通項をもってそれを、作品を、見たり、対峙できたり、というところが、路上にあるものの面白さだと思う(作品を前に他愛のない世間話もできる)。町にはほんとうにいろんなものが潜んでいるなあ。
最終日、時間最後まで粘ってしまったこともあり、撤収を勝手にお手伝いさせてもらったことが、さらに町内の地蔵盆に参加したかのような体験として印象に残った。

2014/08/24(日)(松永大地)

Unknown Nature

会期:2014/08/22~2014/09/03

AYUMI GALLERY/ Underground/ 早稲田スコットホールギャラリー[東京都]

カトウチカのキュレーションで、Unknown Seriesとして毎年開催されてきたグループ展も、今年で第5回目を迎える。今回は神楽坂、早稲田の3つのギャラリーを舞台として、「Unknown Nature」展が開催された。出品作家はAYUMI GALLERYの「Recombination 組み換え」のパートに小山穂太郎、鷹野隆大、大西伸明、進藤環、岡田和枝、西原尚、Undergroundの「Creature イキモノ」のパートに松本力、秦雅則、町野三佐紀、栗山斉、渡辺望、青木真莉子、渡邉ひろ子、早稲田スコットホールギャラリーの「Myth 神話」のパートに豊嶋康子、船木美佳、原游、小島章義、小泉圭理である。
「大きく変わりつつある「自然」の姿、その概念、私達との関係に目を向ける」という展覧会のコンセプトがやや抽象的で曖昧であり、三つのパートの相互関係もうまく絡み合っているようには思えない。出品作品も、絵画、写真、インスタレーション、映像、サウンド等、かなり幅が広い。だが逆に、いま日本の現代美術のコアの部分がどのようにうごめいているかという断面図が、くっきりとあらわれてきているのが興味深かった。写真作品を出品しているのは、鷹野、進藤、秦、青木の4人だが、それらはまったく他の作品と違和感なく、展示空間に溶け込んでいる。1990年代以降、写真と現代美術の境界線の消失がずっと指摘されてきたのだが、はからずも、それがむしろ「普通」の状態になっていることが証明されているともいえる。今後は青木真莉子の写真、インスタレーション、映像の融合の試みのように、各ジャンルの混淆を前提として作品のクオリティが問い直されてくるのではないだろうか。

2014/08/25(月)(飯沢耕太郎)

長野陽一「大根は4センチくらいの厚さの輪切りにし、」

会期:2014/08/19~2014/09/05

ガーディアン・ガーデン[東京都]

長野陽一は1998年に沖縄・奄美諸島に住む10代の少年・少女のポートレイトのシリーズを、「人間の街」プロジェクトの一環としてガーディアン・ガーデンで展示した。今回の展示はそれから16年を経て、かつて同会場で展覧会を開催した写真家の「その後」をフォローする「セカンド・ステージ」という枠での企画になる。会場には78点の料理写真が整然と並んでいた。
長野が料理写真を本格的に撮影するようになったのは、2002年に創刊された雑誌『ku:nel』で料理のページを担当するようになってからだ。試行錯誤の末、彼が見出していったのは「料理の美味しさだけでなくその背景にある人やストーリーが撮りたい」ということだった。たしかに、普通、料理写真といえば、最終的に出来上がった時の形状をしっかりと読者に伝わるように撮影することにこだわったものが多い。長野の料理写真も、たしかにそれがどのような「見かけ」なのかを正確に写し取っている。だが、決してそれだけではなく、彼の写真には料理がどのような状況で、どんな風に作られてきたのか、そのプロセスを読者にいきいきと伝える力が備わっているように思える。その秘訣が何なのかを答えるのは、けっこうむずかしい。だが、どの写真を見ても、その場にある光(自然光、白熱灯、蛍光灯など)を使い、余分な要素をカットしてシンプルに、しかも素っ気ない感じを与えないように愛情を込めて撮影することで、料理写真でもその「行間」を読み取らせることが可能になるのではないだろうか。
料理写真も「撮られた理由や実用性を切り離して一枚の絵としてみると、ポートレイト写真と似ている」というのが、長野が長年にわたる模索を経て導きだした結論だ。たしかに、彼の写真は「一枚の絵」としての強度、完成度がとても高い。しかも写真の見せ方に、それぞれの料理の個性や性格を「ポートレイト写真」としてしっかり捉えようとしている様子がうかがえる。この方向性を、さらに究めていってほしいものだ。

2014/08/29(金)(飯沢耕太郎)

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駒沢公園と東京オリンピックの施設

[東京都]

オリンピックのことを書くので、駒沢公園と代々木の施設を再訪する。同日に続けてまわると、やはり後者の造形力がきわだつ。丹下健三は田中角栄に直談判し、予算を増額してもらったのは今ではできない荒技だろうが、それだけのすぐれた結果をもたらした。一方、モニュメント的な建築に対し、都市計画的に代々木の敷地が十分に広くないこともよくわかる。







上記2点 丹下健三《国立代々木競技場》



芦原義信《駒沢公園オリンピック記念塔》

2014/08/29(金)(五十嵐太郎)

林秀和展

会期:2014/08/26~2014/08/31

ギャラリーすずき[京都府]

正12面体を元にした4次元図形を画面に描いた作品シリーズが展示されていた。何層にも塗り重ねた色が深く沈むような画面に、緻密に引かれた複数の線がある。宇宙の複雑性の中に無限の偶然性があることを示すこの作品、会場には正12面体の辺や頂点の数を元に計算したメモも展示されていて、厳密に計算された上での表現の試みであることを示していた。そのあたりのことは私にはよくわからないのだが、フリーハンドで描かれたという作品そのものが美しいからいっそう興味深い。また機会があったら次の発表を見てみたい。

2014/08/29(金)(酒井千穂)

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