artscapeレビュー

2009年08月01日号のレビュー/プレビュー

ウィンター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開

会期:2009/05/23~2009/07/20

原美術館[東京都]

美術評論家・松井みどりによるマイクロポップの第二弾。会場を水戸芸術館から原美術館に移し、参加作家も何人かを入れ換えた。海外への巡回を想定しているせいか、全体的に平面作品が多く、空間を作りこむインスタレーションはほとんど見受けられなかった。その平面作品もタブローではなくドローイングが中心で、それらの大半は内向的な世界を大切に維持する傾向にあり、まるでその場だけ時間が止まっているかのように錯覚したほどだ。外向的な暴走によってよどんだ現状を鮮やかに突破しているChim↑Pomですら、この時間を欠いた「温室」のなかでは空回りしているように見えた。この無時間性をもってして次の時代を牽引するという矛盾に満ちたラディカリズムを徹底するのであれば、まだわかる。だが、そのようなアイロニカルな未来像を描けないほど、同展の展示はただ延々と自転を繰り返すばかりで、ついにその「温室」への入り方がわからないまま、会場をあとにした。

2009/07/07(火)(福住廉)

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大駱駝艦・壺中天公演:村松卓矢『穴』

会期:2009/07/01~2009/07/12

大駱駝艦・壺中天[東京都]

白塗りの若い裸体はダンサーというより異世界の怪物みたいで、村松卓矢はその怪物をゲーム的な「キャラ」として扱っているように見えた。タイトル通り、舞台の中央に穴が空いていて、ものやダンサーが入ったり出て来たりと作品構造はきわめてシンプル。冒頭、中堅ダンサー4人が横並びになって微動する。蟻地獄のような具合に、いずれ4人は穴に滑り込んでゆくのだけれど、その間に見せたこの微動は、ゲームのキャラがコントローラーからの指令を待っているときの反復動作のようだった。表現なき表情、ロボット的な風体はかわいく、しかも独特のリアリティを感じる。ただ動作がキャラ的に見えるという形式的なゲーム性もあるのだけれど、より重要なのはダンサーの動く動機にゲーム的な構造が含まれているところだ。例えば、後半で、若手8人ほどが踊る際、「シュッ」と息を小さく吐く合図をきっかけに「首を振る」などの単純な動作のヴァリエーションが展開される。普通ならば隠すはずの合図、それが響くたびに切り替わる動作、この指令と応答のセットによって、自己表現とは異なる何かが舞台上に生じていると見る者は感じる。指令と応答を繰り返す遊びは芸術的とは言い難いけれども、芸術的ではないからこそ今日的なリアリティがある。むしろ、こうした構造への探究から生まれるものの内にこそ未来の芸術の姿を見ることができるのではないだろうか。

2009/07/08(水)(木村覚)

Art Project Studies

会期:2009/06/27~2009/07/11

プロジェクトスペースKANDADA[東京都]

東京藝術大学の中村政人研究室の学生たちによるアートプロジェクトをテーマとした展覧会。全国各地で活動するアートプロジェクトの中心人物へのインタビュー映像や一覧表などを発表した。全体的に展覧会というより研究発表会という印象は拭えないものの、おもしろいのはその研究の方法。どれほど深くアートプロジェクトに参入したとしても、ほとんどの研究者は「研究者」という立場を最後の最後まで死守しがちだが、彼らは「アーティスト」「サポートスタッフ」「来場者」という立場から、それぞれアートプロジェクトにアプローチした。「研究者」という不自然な身分を無理して装うのではなく、あくまでも自分の関心をもとにアートプロジェクトの一側面を垣間見ようとする、良い意味でも悪い意味でも、素人性が、結果的にアートプロジェクトの多面性を浮き彫りにすることに貢献したようだ。ここで収集した豊富な資料をもとに、ぜひ客観的な研究に発展させてほしい。

2009/07/09(木)(福住廉)

ネオテニー・ジャパン──高橋コレクション

会期:2009/05/20~2009/07/15

上野の森美術館[東京都]

現代アートのコレクターとして知られる高橋龍太郎のコレクションを公開する展覧会。村上隆や会田誠、山口晃、鴻池朋子、小谷元彦など、90年代からゼロ年代にかけての日本の現代アートを代表する作品がずらりと並んだ展示は圧巻だ。それらが90年代以後の歴史を体現した作品であることはまちがいないのだろうが、同時にそれらを公立美術館でまとめて収蔵できていないという事実が、90年代以後の日本の現代アートの窮状を物語っていた。

2009/07/11(土)(福住廉)

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野村仁 変化する相─時・場・身体

会期:2009/05/27~2009/07/27

国立新美術館[東京都]

野村仁の大規模な回顧展。数多くの作品を整然と並べた展示そのものが野村の作品ではないかと思えるほど、作品の内容と展覧会の形式がシンクロした展観で、たいへんな見応えがあった。ひとつひとつの作品を丁寧に見ていくと、物体に加わる重力や日常の記録に注がれていた野村の視線が、次第に天体の規則性や宇宙の謎に向けられていく様子がはっきりと伝わり、そのスリリングな展開がたまらない。野村の系譜に位置づけられる若いアーティストたちは少なくないが、彼らの今後の活動をまっとうに評価するためにも、まずは野村の活動の行き先をしっかりと見届けることが必要だ。今後の動向をもっとも注目すべきアーティストである。

2009/07/11(土)(福住廉)

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