artscapeレビュー

2009年08月01日号のレビュー/プレビュー

大友良英+青山泰知+伊藤隆之+YCAM Inter Lab+α「ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置」展

会期:2009/07/04~2009/08/09

VACANT[東京都]

大友良英らによる展覧会。およそ100台の古いポータブルレコードプレイヤーを並べた大規模なサウンドインスタレーション《without records》を発表した。さまざまな高さの台に置かれたポータブルプレイヤーが広い空間に林立し、その上にはランプが下がり、レコードの欠けたプレイヤーから発せられるノイズとは無関係に明滅する。インスタレーションとしての完成度に十分満足しつつも、機械の摩擦やサイレンを連想させる、いかにもノイズ的な音の質が旧態依然としているように思えてならない。ポータブルプレイヤーというレトロな再生装置をあえて利用しているように、懐古的な志向性をあえて狙っているのかもしれないが、すでに機械化された人間というモチーフが一般化している以上、その今後のありようを予見させる音の質こそ求められているように思う。「ノイズ」には回収しえない音は、ありえないのだろうか。

2009/07/11(土)(福住廉)

片野まん展 “The modern a.k.a. god”

会期:2009/07/11~2009/08/09

MORI YU GALLERY KYOTO[京都府]

無数のモチーフが散りばめられ、混沌としたパワーが渦巻く絵画作品。個々のモチーフは線画で描かれており、画面がブロック状に分割されている。これらは漫画からの影響だろうか。そう言えば画中に頻出する文字も多分に漫画っぽい。ともかく密度が濃い上に点数も多いとあって、作品を「見る」というよりは「浴びる」感覚に近い。いつの間にか作品の世界にずっぽりはまって、ゆるゆると漂流している自分に気が付いた。

2009/07/12(日)(小吹隆文)

ラム・カツィール展─抹茶ノ中ノ嵐─

会期:2009/07/10~2009/07/26

京都芸術センター[京都府]

展示室の床には8枚の畳が敷かれ、傍らにドウダンツツジが生けられている。壁面にはスクリーンがあり、映像が投影されている。映像は茶席の風景から始まる(展示室のインスタレーションは茶室の写し)。静けさ漂うその世界を切り裂くように庭園を新幹線が横切ると、画面は一転して高速の車窓風景へ。田園地帯を走りぬけた新幹線は大都会東京に到着する。見慣れた高層ビル群も、外国人の目を通して映像化されるとどこか仮想空間のようだ。映像は徐々に速度と音量を増し、混雑した通勤電車の車窓風景が幾つもコラージュされた状態でピークを迎え、再び冒頭の茶席へとループする。カツィールは、日本人に流れる二つの時間(伝統とモダン)をテーマにしたようだ。それ自体は外国人から見た現代日本の典型で新味は感じられなかったが、音と光と速度が高密度化していくクライマックスはそれなりに見応えがあった。

2009/07/12(日)(小吹隆文)

中岡真珠美 展

会期:2009/07/13~2009/07/25

Oギャラリーeyes[大阪府]

中岡の作品は一見抽象的だが、実は自分が見た風景を元にして描かれており、本人も風景画であると明言していた。新作は広島の原爆ドームを描いたものだ。画調自体はこれまでと同様だが、それが建物であることが明確になり、明らかにいままでとは違う方向に進んでいることが分かる。本人いわく「これまでの方法に慣れてしまい、早晩行き詰まるのが目に見えていたので、新たな方向を模索している」とのこと。今後起こるであろう変化の予兆として本展を記憶しておきたい。なお、原爆ドームを選んだ理由は、建物の歴史的由来よりも、誰もが共有化できるイメージや構造物としての在り方に興味を覚えたことによる。

2009/07/13(月)(小吹隆文)

上平孝美 写真展 ひとりもん Singles

会期:2009/07/13~2009/07/25

Port Gallery T[大阪府]

作家本人より年長の40代から50代の独身男性ばかりを撮影したポートレイトのシリーズを発表。同作は2008年の「キヤノン写真新世紀」で入選したものだが、本展にはその後制作された新作も含まれている。被写体の彼らはいずれも地面に体育座りし、微笑まず、上目遣いでカメラを見つめている。膝を付けて座る姿勢と上目遣いが組み合わさると媚びた感じがして私は好きになれない。しかし、ポーズや撮影場所は被写体と協議の上了解を得たものなので、第三者が不満を言っても仕方ないだろう。テーマが明快で、ビジュアルのインパクトもあるので、作品を前に多くの人が盛り上がったそうだ。そうした談議を誘発することがテーマの一つであるなら、被写体の情報や撮影過程を記録したキャプションを付けるべきだったかもしれない。

2009/07/13(月)(小吹隆文)

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