artscapeレビュー

2009年11月15日号のレビュー/プレビュー

現代美術展──《閾》

会期:2009/10/19~2009/11/07

旧坂本小学校[東京都]

東博の横道をチコチコ歩いて鴬谷の向こうの旧坂本小学校へ。東京藝大と台東区がツルんで街をにぎやかす「上野タウンアートミュージアム」の会場のひとつで、出品は藝大関係者が中心だが、フランシス真悟や秋好恩ら藝大と無関係者や、フランス・ナント市の美術学生も参加している。ま、いい作品が落ちてれば枠組みなんざどうでもいいが。元教室に白砂を敷きつめてゴミやガラクタを配置した福田美沙の《不在の庭》、半馬神の木像を置いた太田祐司の《半馬博物館》、自分の血を固めてキャンディにした松田直樹の《ブラッドキャンディ》、ガラス窓に花模様を描いた秋好恩の《花雲》などが印象に残った。

2009/10/30(金)(村田真)

ヨコハマ国際映像祭2009

会期:2009/10/31~2009/11/29

新港ピア+BankARTスタジオNYKほか[神奈川県]

ここ10年来、映像を見るのは時間のムダだと思って避けてきたが、この映像祭は当たり前だが映像しかやってないので、仕方なく見ることにする。まずはBankARTの1階を占有したクリスチャン・マークレーから。厖大な映画のなかの楽器の演奏シーンを抜き出して四重奏として構成し、4面スクリーンで見せている。これはすごい。いつのまに映像はこんなに進化していたのか。時間がないので次へ行きたくても足が動かない、それほど釘づけになった。2階3階にはこれほどの作品はなかったものの、それでも退屈することなく楽しんで見ることができた。さすがに質の高い作品ばかり集めてるわい。と思って新港ピアの会場へ行くと、こちらはスカスカで肩スカし。でもそれなりに納得の映像祭ではある。

2009/10/30(金)(村田真)

和田みつひと「Behind Blue Light Yokohama」

会期:2009/10/31~2009/11/29

BankARTスタジオNYK、BankART桜荘ほか[神奈川県]

映像祭の期間に合わせた企画。BankART関連施設のガラスドアや窓にカラーの透明フィルムを貼りつけていく作品だが、光や色彩を投影するという点でこれも「映像」といえなくはない。夜中に黄金町の桜荘に行ってみたら、窓がピンクに染まっていた。これに近隣住人から「かつての(売春街だった)黄金町を思い出す」とクレームがつき、すったもんだの末、撤去されることに。ことはピンク色が許されるかどうかという美学の問題ではなく、あるコミュニティのなかで表現の自由と暴力を考える社会学の問題なのだ。

2009/10/30(金)(村田真)

伊東豊雄+藤本壮介+平田晃久+佐藤淳『20XXの建築原理へ』

発行所:INAX出版

発行日:2009年9月30日

伊東豊雄が3人の若手に架空のプロジェクトを依頼するドキュメント本である。選ばれたのは、好敵手の藤本壮介と平田晃久、そして佐藤淳。近代主義を乗りこえるための、伊東の問いかけから始まり、討議、ゲストを交えての研究会、プレゼンテーションを経て、それぞれの21世紀の造形が示される。1960年代のメタボリズムをほうふつさせるような前向きに未来の原理をつかみだそうとする姿勢が気持ちいい。社会の空気に萎縮し、妙に大人びた学生の案よりも、はるかに若々しい。そう、彼らは童心に帰って、建築を楽しんでいる。何をつくったかという最終形を知るだけなら、一冊の本をつくる必要はない。写真を中心にした冊子でも充分である。むしろ、創造というプロセスを四人が共有しながら、建築家として議論する言葉や思考の動きこそが、本書の最大の醍醐味である。ANY会議のような抽象的な議論とは違う、具体性のある刺激的なトークが展開されている。

2009/10/31(土)(五十嵐太郎)

都市デザイン研究体『日本の広場』

発行所:彰国社

発行日:2009年5月

最近、広場研究をやっているのだが、ちょうどいいタイミングで今年復刻版が出たのが、『日本の広場』である。もともとは『建築文化』1971年8月号の特集を書籍化したものだ。やはり、1960年代の初頭に同誌に特集が組まれた「日本の都市空間」や「都市のデザイン」がのちに単行本になったのも一連のシリーズの続編であり、伊藤ていじが仕かけている。筆者が大学院生の頃、エディフィカーレの同人とともに『建築文化』に都市の特集を持ち込んだとき、実はこれらの事例がモデルだった。さて、『日本の広場』は、先行する二冊と同様、フィールドワークと事例収集を行ないつつ、さまざまなキーワードによって事象を整理している。しばしば日本に広場はないと言われるが、本書は神社や団地、街角や河原において日本的な広場のあり方を探っているのが興味深い。西欧が固定した広場の空間をもつのに対し、日本ではアクティビティや装置などによって生じるという。時代を感じさせるのは、デモや新宿西口広場のフォーク集会などが紹介されていること。なるほど、人々が路上を占拠した1960年代終わりの雰囲気が、本書を生みだした契機のひとつだったことは間違いないだろう。

2009/10/31(土)(五十嵐太郎)

2009年11月15日号の
artscapeレビュー