artscapeレビュー

物語としての建築 若山滋と弟子たち展

2020年11月15日号

会期:2020/09/19~2020/11/23

清須市はるひ美術館[愛知県]

カタログにおいてメール対談をさせていただいたこともあり、名古屋まで出かけた際に《清須市はるひ美術館》の「建築という物語への旅─若山滋と弟子たち展─」を訪れた。若山は、名古屋工業大学で長く教鞭をとり、多くの弟子を輩出したことから、展覧会の内容は、弧を描く空間の展示室1では本人の建築作品や著作、展示室2でOB・OGの手がけた作品、そして吹抜けと上階では大学の歴史を紹介するという構成だった。彼は多くの著作を刊行しており、そのテーマも、構法、風土、物語からアイドルまで、多岐にわたる。またネット上の「THE PAGE」でも、政治や社会に関する時評を執筆し、建築を専門のアカデミーに閉じることなく、積極的に外に開くことを意識してきた建築家だ。



若山滋の建築展示風景



若山滋研究室OB・OGの展示風景



若山滋の著作展示風景


ちなみに会場の《清須市はるひ美術館》(1999)と印象的なヴォールト天井がある正面の広場も、若山が設計に関わった建築である。そうした縁で展覧会がここで開催されることになったようだが(同館では初の建築展らしい)、いわば会場も展示のひとつになっている。筆者の訪問時は、広場の一角において、弟子の北川啓介による、発泡ウレタンを用いて1日で建設できる簡易住宅のインスタント・ハウスが設置されていた。



《清須市はるひ美術館》の模型



《清須市はるひ美術館》正面広場



広場の一角に設置された、北川啓介によるインスタント・ハウス


若山の建築については、今回、ほとんどの作品は新しく模型が制作され、文章にこだわった縦書きのキャプションとともに展示されていた。個人的に興味をもったのは、名古屋駅前や栄周辺に提案した未来的な都市構想、あるいはマハティールに依頼されたというマレーシアの再開発など、あまり知られていなかった大型プロジェクトの存在である。もしもこれらが実現していれば、名古屋の都心部はもっとエキサイティングになっていただろう。ほかに大きなスケールの作品としては、新名古屋火力発電所の外壁に対し、モーツァルトのメロディをもとにしたデザインを手がけていた。OB・OGの作品展示では、北川や近藤哲雄を含む若手が、パネルにとどまらず、力を入れたプレゼンテーションを行なっていた。ちょうどU35にも出品している葛島隆之や1-1 Architectsは、大きな模型を持ち込んでいた。それにしても若山が多くの建築家を育てたことがわかる。まさに彼の研究室の総力戦というべき展覧会だった。


名古屋駅前プロジェクトの展示模型

2020/10/25(日)(五十嵐太郎)

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