artscapeレビュー

京都・大阪の近代建築リノベーション施設をまわる

2021年02月15日号

[京都府、大阪府]

通常、年末年始は海外なのだが、さすがに今回はそれがかなわず、関西で過ごすことになった。西洋と違い、日本では美術館も休館になってしまうため、宿泊施設や商業施設を中心にまわった。改めて気づいたのは、2020年にリノベーション建築が増えたことである。《京都市京セラ美術館》とほぼ同時期の近代建築をリノベートした《ザ・ホテル青龍 京都清水》は、様々な記憶や痕跡、装飾的な細部の意匠、中庭の階段を大事にしつつ、増築部分を明快にした、ていねいな仕事である。また屋上のバーや一部の客室から八坂の塔や祇園閣がよく見える立地が素晴らしい。


《ザ・ホテル青龍 京都清水》。元の講堂を食堂に改造した


昨年もうひとつ、小学校がホテルに生まれ変わってオープンしたのが、《ザ・ゲートホテル 京都高瀬川》である。京都の中心部に位置しており、長い間、ここはどうなるか? と気になっていた場所だった。学校を模した新築部分のヴォリュームは、オリジナルや周囲に対し、やや大きすぎるが、なるほど水平方向にとても長い8階のバー・ラウンジからの眺めは抜群である。なお、《新風館》(1926)も、隈研吾らによる2度目のリノベーションによって話題になった商業・宿泊施設だ(1度目のリノベーションは、2001年のリチャード・ロジャース)。


小学校をホテルにリノベートした《ザ・ゲートホテル 京都高瀬川》



リチャード・ロジャースによる最初のリノべーションを経た《新風館》



隈研吾らによる2度目のリノべーションを経た《新風館》


変わり種としては《Nazuna京都 椿通》が2020年にオープンしている。これは現地に行くと、全体的に新しく見えるので、もしかするとリノベーションではなく、テーマパーク的なものなのかと思ったが、説明によると、やはりL字型の路地に並ぶ、明治期の町屋群を改修した23室とのこと。基本パターンは、1階が寝室と半露天風呂、そして2階が居間である。十数年前からのプロジェクトで、築100年の町家長屋を若手作家の工房・店舗・住宅群に改造した《あじき路地》にも訪問したが、本当に細い道を挟む小さな空間だった。もっとも年末だったせいか、ほとんど閉まっていた。


明治期の町屋群を宿泊施設に改修した《Nazuna京都 椿通》



築100年の町家長屋を工房・店舗・住宅に改造した《あじき路地》


また久しぶりに八坂周辺を歩き、半世紀前のアパートを改造して2017年にオープンした《RC HOTEL 京都八坂》は外観のみ見学したが、手前の小さな広場的な空間がよい。実はすぐ背後の高台に《ザ・ホテル青龍》があった。2020年1月、大阪の《高島屋東別館》(1934)の一部が《シタディーンなんば大阪》として開業したので、ここに宿泊した。外観や階段の周辺はしっかりとした近代の様式建築であり、部屋も予想以上に広い。コロナ禍でなければ、ラウンジのフロアも使えた。

ともあれ、急速なインバウンド需要の増加のため、新築だけでなく、リノベーションの宿泊施設がいろいろ登場したのかもしれない。古い建築を使いながら保存する傾向は歓迎すべきことだが、コロナ禍によるツーリズムの低迷が長期化した場合、今後ちゃんとやっていけるのかは気になるところだ。


半世紀前のアパートを改造した《RC HOTEL 京都八坂》



国の有形文化財《髙島屋東別館》の一部がリニューアルされた《シタディーンなんば大阪》

2020/12/31(木)(五十嵐太郎)

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