artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

写真都市展 ─ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち─

会期:2018/02/23~2018/06/10

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

ウィリアム・クラインが1950~60年代に刊行した『ニューヨーク』、『ローマ』、『モスクワ』、『東京』のいわゆる「都市4部作」は、世界中の写真家たちに大きな衝撃を与えた。影響力という意味において、それらを上回る写真集は、それ以前もそれ以後もなかったのではないだろうか。都市の路上をベースとするスナップショットが、人間と社会との関係をあぶり出し、現代文明に対して批判的な視点を提示できることを教えてくれただけでなく、その斬新な「アレ・ブレ・ボケ」の画面処理においても、まさに現代写真の起点となったのである。

伊藤俊治が企画・構成した本展のクラインのパートを見ると、その衝撃力がいまなお充分に保たれていることがわかる。特に今回は、壁と床をフルに使った18面マルチスクリーンによるスライドショーという展示のアイデアが、効果的に働いていた。クラインの写真が本来備えているグラフィカルな要素は、デジタル的な画像処理ととても相性がいい。彼の作品に対する新たな解釈の試みと言えるだろう。

だが、本展の第二部にあたる「22世紀を生きる写真家たち」のパートは、どうも釈然としない。石川直樹+森永泰弘、勝又公仁彦、沈昭良、須藤絢乃、多和田有希、西野壮平、朴ミナ、藤原聡志、水島貴大、安田佐智種という出品者たちが、どういう基準で選ばれているのか、クラインの仕事とどんなつながりを持っているのかがまったくわからないからだ。クオリティの高い作品が多いが、それらが乱反射しているだけで焦点を結ばない。例えば、安田佐智種の東日本大震災の被災地の地面を撮影した「福島プロジェクト」など、その文脈が抜け落ちてしまうことで視覚効果のみが強調されてしまう。キュレーションの脆弱さが目についたのが残念だった。

2018/03/15(木)(飯沢耕太郎)

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原田裕規「心霊写真/ニュージャージー」

会期:2018/03/09~2018/04/08

Kanzan Gallery[東京都]

原田裕規の「心霊写真/ニュージャージー」展は2つのパートから成る。「心霊写真編」では、テーブルの上に、清掃・リサイクル業者が回収したものだという数千枚に及ぶスナップ写真やネガの束が雑然と積み上がっていた。さらに、そこから「心霊写真」というコンセプトで選ばれて、「ひけらかす」ようにフレーミングされた写真が、壁に掛けられている。ほかに、「スマートフォンのネガポジ反転機能を用いることによって、現実と虚構が反転」するようにセットされた画像、「黄ばみ」を人工的に吹きつけたフェイク写真、「どちら側から見ても『裏側』の写真」なども展示されていた。

一方「ニュージャージー編」は、原田自身がアメリカ・ニュージャージー州で撮影した写真をわざわざ古くさくプリントし、「自ら発見したもの found-photo」と見なして展示している。そこに作者の気持ちを想像して書いた「通信」を添えることで、「架空の作者」を立ち上げるという試みである。

このところ、無名の作者による「ヴァナキュラー写真」や偶然発見した「ファウンド・フォト」をアートの文脈で再構築するという作品をよく目にする。手法のみが上滑りする場合も多いのだが、原田はコンセプトをきちんと吟味し、手を抜かずに作品化しているので、細部までよく練り上げられた展示として成立していた。不可視の対象が写り込む「心霊写真」は写真の鬼子というべき領域であり、やり方次第では従来の写真表現、鑑賞のプロセスを文字通り「裏返す」ことが期待できそうだ。手法をより洗練させて、可視化と不可視化を往復するようなプロセスを、さらに徹底して追求していってほしいものだ。

2018/03/15(木)(飯沢耕太郎)

宇佐美雅浩「Mandala-la in Cyprus」

会期:2018/02/21~2018/03/24

Mizuma Art Gallery[東京都]

2015年にMizuma Art Galleryで開催された個展で、はじめて「Manda-la」シリーズを展示して衝撃を与えた宇佐美雅浩が、さらにヴァージョン・アップした展覧会を開催した。今回、彼が1年余りの時間をかけて撮影したのは、地中海のキプロス島である。ギリシャ正教徒であるギリシャ系キプロス人と、イスラム教徒であるトルコ系キプロス人とが、緩衝地帯(グリーンライン)を挟んで同居するキプロス島は、ある意味、現代社会の縮図ともいえる場所だ。宇佐美は、その複雑で緊張感を孕んだ島の歴史を踏まえて、住人たちをある場所に活人画のように配置し、パフォーマンスを演じさせて撮影するという手法で作品を制作した。

例えば、大作の「マンダラ・イン・キプロス」(2017)では、画面の中央にドラム缶を並べて「グリーンライン」を表現し、黒と白の同じ衣装を身につけ、それぞれの祈りのポーズをとるギリシャ正教徒とイスラム教徒たちに、その両側に並んでもらった。画面の手前には少女たちがいて、彼女たちと花で作られたキプロスの地図に、迷彩服姿の兵士たちが銃を向けている。そんな入り組んだ構図の写真を、デジタル合成ではなく4×5インチサイズの大判カメラで「一発撮り」していくというのだから驚くしかない。一つひとつの作品に傾注されたエネルギーを考えると、気が遠くなるような作業である。それを現在も政治・軍事情勢が不安定なキプロス島で、通訳を介しながらやり遂げたことには大きな意義があると思う。

どちらかといえば、政治的なテーマが敬遠されがちな日本の写真・現代美術の世界で、このような作品をつくり続けることの難しさは、痛いほどよくわかる。しかも、宇佐美の作品は単なる絵解きで終わることなく、視覚的なエンターテインメントとしての強度もしっかりと保ち続けている。そこに彼のアーティストとしての真骨頂があるのではないだろうか。

2018/03/13(火)(飯沢耕太郎)

塩竈フォトフェスティバル2018

会期:2018/03/07~2018/03/18

塩竈市杉村惇美術館ほか[宮城県]

平間至を実行委員長として隔年で開催されている塩竈フォトフェスティバル。6回目になる今回は、東日本大震災から7年目にあたる3月11日を中心に、塩竈市内のスペースで、展覧会やポートフォリオレビューなどの催しが開催された。

今回のテーマである「自己と他者」に沿うように、塩竈市杉村惇美術館で開催されたのが、「牛腸茂雄 まなざしの交錯」展である。牛腸の「日々」、「SELF AND OTHERS」、「幼年の『 時間とき』」といったシリーズから代表作34点をピックアップした、それほど大きな規模ではない展覧会だが、1950年に建造されたという元公民館の建物を改装した瀟洒なスペースに、写真が柔らかに溶け込んでいて、魅力的な展示になっていた。それにしても、いつ見ても牛腸の写真には見る者の心に深く食いいってくるような不思議な力がある。淡々と写しているようで、被写体となる人物たちの、本人すら気づいていないような痛みや翳りを感じとる能力が抜群に高いということではないだろうか。3月11日に会場で行なわれた、本展の構成を担当した三浦和人(牛腸の桑沢デザイン研究所の同級生)と平間至とのトークも、牛腸の写真に写っている被写体の細やかな情報を伝え、彼の「まなざし」のあり方を問い直す、とても充実した内容だった。

ほかにも、亀井邸では菱田雄介、横山大介、喜多村みか+渡邊有紀による「あなた/わたし」展が、ビルドスペースでは前回のポートフォリオレビューでグランプリを受賞した北田瑞絵の「一枚皮だからな、我々は。」展が開催されるなど、「自己と他者」というテーマ設定をしっかりと踏まえたいい展示を見ることができた。けっして派手ではないが、地に足がついた写真フェスティバルが、東北の地に根付きつつあるのは素晴らしいことだと思う。

2018/03/11(日)(飯沢耕太郎)

Tokyo Rumando(東京るまん℃)「S」

会期:2018/03/02~2018/03/31

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

Tokyo Rumandoの「S」は意欲的な新作である。「S」という謎めいた文字が何を意味するかについては、いろいろな解釈が可能だろう。一番わかりやすいのは、「ストリップティーズ」の「S」ということだ。展示されている作品には、ストリップ劇場の看板や楽屋を撮影したものが多い。実際にその舞台で作者本人がストリップティーズを演じている場面もある。もうひとつ、「ストーリーズ」の「S」という解釈も成り立つ。これまでも、Tokyo Rumandoの作品には物語性が組み込まれていることが多かったのだが、今回はそれがより強く打ち出されてきている。一枚一枚の写真に、いわくありげなバックグラウンドがあるように見えるし、セーター服、網タイツ、能面のような仮面など小道具もそれぞれが自己主張しているのだ。さらに、ワックスペーパーに焼き付けた写真に、透過光を当てて再複写したという、ざらついた、白黒のコントラストの強いプリントも、ミステリアスな雰囲気を醸し出すために効果的に使われていた。

だからこそ、その物語性をもっとくっきりと浮かび上がらせる仕掛けが必要だったではないかとも思ってしまう。写真の並びだけでそれを実現するのはやや難しいので、テキスト(言葉)もあったほうがよかった。《DISCO Red Dress》(2017)と題する映像作品も、静止画像の作品ともっとうまく組み合わせれば、面白いインスタレーションとして成立しそうだ。全体的にまだ未完成な印象だが、ブラッシュアップしていくと、さらにインパクトが強まるのではないだろうか。

なお展覧会に合わせて、ZEN FOTO GALLERYから、同名のスタイリッシュな造本の写真集が刊行されている。

2018/03/08(木)(飯沢耕太郎)