artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
アマノ雅広 写真展「87th & Lexington - The viewpoint from a window / Snow」

会期:2010/01/09~2010/01/31
TANTO TEMPO[兵庫県]
積雪したニューヨークの街角で、カフェの窓越しに行き交う人々を定点観測した写真作品。2003年に撮影されたものだ。過去に数点の作品を見たことはあったが、全作品を見たのは初めて。以前は、窓の意味や内と外の関係、見る見られるの関係など深読みをしていたのだが、シリーズを通して見るとむしろ小粋な短編小説の趣が強い。一部だけを見て前のめりになっていた自分に気付かされた。もちろん、作品の底流には写真論的なテーマも込められているのだろうが。
2010/01/30(土)(小吹隆文)
オサム・ジェームス・中川 写真展 BANTA─沁みついた記憶─

会期:2010/01/20~2010/02/02
銀座ニコンサロン[東京都]
沖縄の海に切り立った断崖、BANTAを写した写真展。岩壁の表面のごつごつしたテクスチュアーと縦長の構図によるハイパーリアルな光景が特徴だ。海を見下ろす視点と崖を見上げる視点が共存した写真は、引き込まれると同時に突き上げられるような、奇妙な知覚体験をもたらしている。これは、先ごろ国立新美術館の「DOMANI明日展2009」に参加した安田佐智種による放射状に乱立した超高層ビルの写真と通じる、じつに今日的な歪んだリアリティーの現われなのかもしれない(5月に大阪に巡回する予定)。
2010/01/28(木)(福住廉)
杉田和美 写真展

会期:2010/01/18~2010/01/30
コバヤシ画廊[東京都]
展覧会のオープニング風景を撮影する杉田和美による毎年好例の写真展。展覧会のはじまりにふさわしい熱気のさなか、ベテランのアーティストや著名なキュレイターの無防備な一面を垣間見ることができるのが楽しい。今年の発見は、岡崎乾二郎と浅田彰がともに奇妙な柄物のトートバックを肩から下げていたこと。あのあたりでは、ああいうのが流行っているんだろうか?
2010/01/28(木)(福住廉)
古田直人「あぶない 左右見てから」

会期:2010/01/26~2010/01/31
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
新宿区須賀町の企画ギャラリー・明るい部屋では、時々何とも不思議な写真家の仕事を見ることができる。写真専門のギャラリーでの展示ははじめてという古田直人もそんな一人。会場に入ると壁、床にびっしりとプリントした写真が貼られ、靴を脱いで鑑賞するようになっている。「写真風呂」に入るような感触が、妙になまぬるくて、気持がいいような悪いような雰囲気だ。写真のほとんどは出合い頭の路上スナップだが、そのタイミングが微妙にずれていて、それもどこか居心地の悪い感じを与える。しかも壁に貼られた写真には、びっしりと細かな文字が書き込んである。電話帳から書き抜いたという人の名前、住んでいる秩父周辺の駅の名前、そこから派生したという「陰核」「目過」「大血沢」といった奇妙な単語。なぜ写真とこれらの文字が関連づけられているのかはよくわからない。だが、どこか呪術的な行為のようにも見えてくる。写真と呪いと笑いが複雑に屈折しながら結びついているのだ。
こういう若い写真家の仕事は、ともすれば長く続かず、いつのまにか消えてしまうことも多い。古田もそうなる可能性があるが、僕は彼には潜在的なパワーがあるように思える。今のところ、コピー用紙にあまり精度のよくないプリンターでプリントした作品が中心なので、チープさが目立ちすぎて落着きが悪い。ねじ曲がった発想の回路を、もっとうまく形にできる方法論が見つかれば、飛躍的に作品の質が上がってくるのではないだろうか。
2010/01/26(火)(飯沢耕太郎)
「現代若者の眼力(めぢから)」展

会期:2010/01/12~2010/02/27
ビジュアルアーツギャラリー[東京都]
山梨県北杜市高根町の清里フォトアートミュージアムでは、毎年35歳以下の若い写真家たちの作品を購入・展示する「ヤング・ポートフォリオ」の企画を実施してきた。本展はその収蔵作品から、石井仁志(書誌学、写真史研究)がプロデュースした選抜展である。同時に早稲田大学26号館10階125記念展示室でも「占領期雑誌フォトスvs.現代若者の眼力」展が開催されており、両会場あわせて30作家130点の作品が展示された。また関連企画としてワセダギャラリーとビジュアルアーツギャラリーでは「この壁を飾るのは誰、この台上を埋めるのは君」と題して、選抜作家と早稲田大学写真部、東京ビジュアルアーツ写真家学生による展覧会も開催されていた。
有元伸也、北野謙、中藤毅彦、佐藤信太郎、山下豊,劉敏史といった力のある日本人写真家たちに加えて、なかなか作品を見ることのできない同世代の外国人写真家たちの展示をまとめて見ることができたのが、まずは大きな収穫といえるだろう。G・M・B・アカシュ(バングラデシュ)、チョン・ミンス、オ・ソクソン(以上、韓国)、ラファル・ミラフ(ポーランド)パトリック・パリア・ベッカー(ドイツ)といった各国の若手作家たちは、今後それぞれの国の写真界を担っていくはずの逸材ぞろいで、作品はなかなか見応えがあった。このシリーズを撮影した直後に急死した、内野雅文の遺作《KYOTO》が展示されていたのも感慨深かった。清里フォトアートミュージアムはあまり地の利がよくないので、このような企画はとてもありがたい。今後はもう少しテーマを絞り込んで、各写真家の作風がくっきり浮かび上がるような構成にしていくといいのではないだろうか。
2010/01/25(月)(飯沢耕太郎)


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