artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
永沼敦子「目くばせ」

会期:2010/02/01~2010/02/18
ガーディアン・ガーデン[東京都]
永沼敦子は2002年に「写真ひとつぼ展」に入賞し、デジタルカメラで電車の車内を撮影した「bug train」のシリーズで注目された。だが、2009年に故郷の鹿児島に拠点を移し、写真家として次のステップを踏み出そうとしている。今回は、「写真ひとつぼ展」で惜しくもグランプリを逃した入賞者にあらためてスポットを当てる「The Second Stage at GG」の枠での展覧会であり、いまの永沼にはぴったりのタイミングだったと言えるだろう。
あたかも蠅の眼に成り代わって、空中を軽やかに浮遊しながら撮影したような以前の写真と比較すると、撮影のスタイルが大きく変化している。大地に根をおろしたようなどっしりとした安定感のある視線の質は、以前の永沼では考えられないものだ。被写体も人間の世界だけではなく、樹木、花、水、光や風など、「自然界たちが発するサイン」に目を配るようになってきている。鹿児島という母なる土地は、2009年に500回以上も噴火したという桜島を見てもわかるように、単純に優しいだけではなく「破壊と創造」のエネルギーに満ちあふれている。そういう力強い自然の営みを、丸ごと抱きとるようにカメラにおさめていこうという姿勢が、彼女のなかにしっかりと根づきつつあるようだ。
ちょっと気になったのは、壁一面にバラバラにずらしながら貼られ、床まではみだしてくるような展示のやり方。以前の「bug train」の浮遊感のある写真ならいいのだが、今回はややそぐわないように感じる。もう少しオーソドックスなフレーミングの展示でもよかったかもしれない。
2010/02/13(土)(飯沢耕太郎)
今井智己「光と重力」

会期:2010/02/06~2010/02/28
リトルモア地下[東京都]
今井智己の『真昼』(青幻舎、2001)は鮮烈な印象を残す写真集だった。風景を、そこに射し込む光が最も強い存在感を発揮する状態でフィルムに定着しようという意志が画面の隅々まで貫かれており、一枚一枚の写真がぎりぎりの緊張感を孕んで写真集のページにおさめられていた。それから10年近くが過ぎ、彼の第二写真集『光と重力』(リトルモア)が刊行されたのにあわせて開催されたのが本展である。
展示を見て感じたのは、今井の姿勢が基本的には変わっていないということ。森や公園の樹木を中心にして、道路、橋、カーテン、窓などの被写体を、8×10インチの大判カメラで、静かに、注意深く引き寄せていくような撮影のスタイルもまったく同じだ。だが、どうも微妙なゆるみが生じてきているように思えてならない。光がそのピークの状態で定着されていた『真昼』と比べると、画面に拡散やノイズがあり、テンションを保ち切れていないように感じるのだ。もちろん完璧に近い構図、光の配分の写真もある。つまり、今井の写真のあり方が、見かけ上の同一性にもかかわらず、いま少しずつ変わりつつあるということだろう。そのことを、必ずしもマイナスにとらえる必要はないと思う。以前のように研ぎ澄まされた、尖った雰囲気だけではなく、風景と柔らかに溶け合うような気分の写真もある。「光と重力」の組み合わせ方を、いろいろ試行錯誤しながら確認しているということではないだろうか。
2010/02/13(土)(飯沢耕太郎)
井上廣子 展 Inside-Out むこう側の光

会期:2010/02/10~2010/02/21
ギャラリーヒルゲート[京都府]
欧米と日本の精神病院を取材した写真シリーズ。展示には床置きのライトボックスを使用し、裏側から光を当てるスタイルが採られた。写っているのは病室の様子で、人間は写っていない。作家が在廊していたので説明を聞いた。欧米、特にイタリアでは精神病院を減らす方向にあり、患者も一般病院に通院・入院させる流れになっているらしい。また、投薬量も日本に比べると大変少ないとも。国ごとに事情があるのでその是非は判断しかねるが、ジャーナリスティックな視点に基づく骨太な写真表現を久々に見たように思う。また、彼女が在住するドイツの美術業界事情にも話題が及んだ。さしものドイツも不況の影響で予算を削減せざるを得ず、アーティストの待遇や企画展の頻度が減っているらしい。どこも大変なんだなと、改めて実感した。
2010/02/11(木)(小吹隆文)
向井智香 個展 the Atonement

会期:2010/02/08~2010/02/13
ぎゃらりかのこ[大阪府]
花束で磔刑図をつくり、それらが枯れて行く過程を記録したスチール写真(約3週間分、約7,000枚)を、早送りでスライドショー上映していた。私が最も驚いたのは上映機材。てっきり薄型テレビの縦起きだと思い込んでいたが、実は手作りの箱で、映像も外側から投影していた。本人いわく「大画面の薄型テレビは高価で買えなかったので、安価で効果的な方法を模索した」とのこと。会場が暗室だったので助けられた側面もあるが、それを割り引いてもほめられるべき上手な展示だった。
2010/02/10(水)(小吹隆文)
Photo Exhibition jasmine zine×Sayo Nagase

会期:2010/02/04~2010/02/10
Nidi gallery[東京都]
『jasmine zine』はモデルのMARIKO(18歳!)が2年前から出している不定期刊雑誌。ずっとカラーコピーを綴じあわせてつくってきたが、7号目にあたる最新号から印刷するようになった。それを記念して、写真を提供している永瀬沙世とのコラボレーション展が実現した。
安い簡易印刷が完全に定着して、「zine」と呼ばれるお手軽な個人雑誌の刊行が急速に広がってきている。一方で、出版社が版元の歴史のある雑誌が、次々に休刊しているのと対照的な現象といえるだろう。『jasmine zine』も好きなものを好きなように出していこうという姿勢がはっきりしていて、見ていて気持がいい。永瀬の写真も、そんな弾むような軽やかな気分をうまくすくいとっている。
写真も、雑誌の雰囲気もどこか既視感があるなと思っていたのだが、そういえば1990年代半ば頃にも、こういう手作り雑誌やカラーコピー写真集がはやった時期があった。Hiromixや蜷川実花が登場してきた頃の「女の子写真」の表現媒体が、まさに「zine」の先駆形だったのだ。先祖帰りなのか、それとも「女の子写真」の余波はまだ続いているのか。ちょうどあの時代についてまとめた僕の新しい本『「女の子写真」の時代』(NTT出版)が出たばかりだ。そのあたりを、もう一度あらためて考え直してみる時期に来ているということかもしれない。
2010/02/09(火)(飯沢耕太郎)


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