artscapeレビュー
古田直人「あぶない 左右見てから」
2010年02月15日号
会期:2010/01/26~2010/01/31
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
新宿区須賀町の企画ギャラリー・明るい部屋では、時々何とも不思議な写真家の仕事を見ることができる。写真専門のギャラリーでの展示ははじめてという古田直人もそんな一人。会場に入ると壁、床にびっしりとプリントした写真が貼られ、靴を脱いで鑑賞するようになっている。「写真風呂」に入るような感触が、妙になまぬるくて、気持がいいような悪いような雰囲気だ。写真のほとんどは出合い頭の路上スナップだが、そのタイミングが微妙にずれていて、それもどこか居心地の悪い感じを与える。しかも壁に貼られた写真には、びっしりと細かな文字が書き込んである。電話帳から書き抜いたという人の名前、住んでいる秩父周辺の駅の名前、そこから派生したという「陰核」「目過」「大血沢」といった奇妙な単語。なぜ写真とこれらの文字が関連づけられているのかはよくわからない。だが、どこか呪術的な行為のようにも見えてくる。写真と呪いと笑いが複雑に屈折しながら結びついているのだ。
こういう若い写真家の仕事は、ともすれば長く続かず、いつのまにか消えてしまうことも多い。古田もそうなる可能性があるが、僕は彼には潜在的なパワーがあるように思える。今のところ、コピー用紙にあまり精度のよくないプリンターでプリントした作品が中心なので、チープさが目立ちすぎて落着きが悪い。ねじ曲がった発想の回路を、もっとうまく形にできる方法論が見つかれば、飛躍的に作品の質が上がってくるのではないだろうか。
2010/01/26(火)(飯沢耕太郎)