artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
田中和人 展 青い絵を見る黄金の僕

会期:2009/11/16~2009/11/28
Port Gallery T[大阪府]
森の情景を撮った写真作品なのだが、青っぽかったり黄味がかっていたりと不思議な色合い。ダム湖に沈んだ森を撮ったような、とろりとしたゼリー状の空気感も謎めいている。田中は絵画と写真の関係性を考えるうち、金屏風の平面的な空間処理を写真でやってみようと考え、金箔をフィルターとして使用したらこのような作品ができたのだという。青系のトーンは金箔が青の光線しか通さないためで、黄色の部分は何らかの影響で金箔の色が写り込んでいるらしい。怪我の功名なのかどうかは知らないが、きわめて幻想的な作品が生まれたのは確かだ。空間を意識したインスタレーション的な展示構成も巧みだった。
2009/11/16(小吹隆文)
柴田敏雄「a View」/「For Grey」

- a View
- 会期:2009年10月30日~11月29日
BLD GALLERY[東京都] - For Grey
- 会期:10月30日~11月25日
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
同時期に開催された柴田敏雄の二つの個展。BLD GALLERYの「a View」は1993~2007年に撮影されたモノクロームの未発表風景作品を、ツァイト・フォト・サロンの「For Grey」では、近作のカラー作品を展示している。「a View」は日本各地のインフラストラクチャー建造物をきっちりと細部までシャープに押さえた手慣れた(見慣れた)作画であり、正直それほど新味はない。ただ、全体に水の流れの質感をとらえた作品が多く、抽象化となまなましい物質感が共存して、ダイナミックな効果をあげている。
「For Grey」はかなり面白かった。カラー写真への「転向」は、柴田の写真に新たな視覚言語を付け加えたのではないだろうか。モノクロームの冷ややかな物質性は、より官能的な色相のパッチワークに置き換えられ、見る者を柔らかに包み込むのびやかな雰囲気が生じている。普通なら、年齢を重ねていくごとに研ぎ澄まされ、洗練された枯淡の境地に向かうはずなのに、柴田がまったく逆の方向に進みつつあるのが興味深い。そのみずみずしい表現力によって、日本の風景をまったく思いがけない角度から見直すことができるようになったのが、実に目出たい。カラーなのに「For Grey」(灰色のために)というタイトルにも、余裕のあるユーモアを感じる。なおAkio Nagasawa Publishingから同名の2冊の写真集も刊行されている。
2009/11/14(土)(飯沢耕太郎)
普後均「On the circle」

会期:2009/11/04~2009/11/17
銀座ニコンサロン[東京都]
普後均は1980年代からの長いキャリアと、高度な技術を持つ写真家で、これまでも安定した水準にある作品をコンスタントに発表してきた。今回の「On the circle」もなかなか見応えがある。だがそれだけではない。正統派のイメージを打ち破る、ひねりを利かせた快作でもある。
タイトルが示すようにテーマは「円」(サークル)。雑草が生えている庭のような場所に、コンクリートのようなもので固められた丸い空間がしつらえてある。その「円の上で」いろいろな出来事が起こる様子を、写真家はやや上方から写しとっている。風船に囲まれた青年、バレリーナと中年の男女、中華鍋で顔を隠した花嫁、舟の上の老婆──さらに「円」の周囲では四季が巡って、草は枯れたり茂ったりし、雨や雪が降り、不意に炎が燃え上がったりする。つまりこの「円」は世界そのものの寓意であり、そこでは写真家が呼び寄せた人物たちによる、さまざまな出来事が起こっては消えていくのだ。
このような演劇的な手法は、ともすれば底の浅いものになりがちだが、あえて淡々と撮影することで、静かな、抑制された雰囲気を作り出したことが逆に成功している。普後の師匠である細江英公なら、もっとドラマチックな演出を試みそうだが、そのあたりに写真家のスタイルが滲み出てくるということだろう。そういえば、普後の代表作である『FLYING FRYINGPAN』(写像工房、1997年)も、フライパンの丸い形にこだわったシリーズだった。「円」は彼にとって、魔術的な意味合いを持つイメージの生成装置なのだろうか。
2009/11/14(土)(飯沢耕太郎)
大崎テツアーノ写真展 謝写酌軸

会期:2009/11/10~2009/11/15
ギャラリー・アビィ[大阪府]
大崎は街中の変てこな看板や人間のユーモラスな仕草を撮らせたら独特の才能を発揮する写真家だ。本展でもそうした笑いを誘う作品が多数出品された。同時にちょっとした人情味も彼の特徴で、冷笑ではなく温かみのある笑いが作品を救いあるものにしている。彼は作品の多くを携帯電話で撮影しているが、パソコンを持たないので、データ容量が満杯になったらSDカードを交換して画像を保存する。なので、家には大量のSDカードがあり、作品を探し出すのが大変なのだとか。デジタル機器をアナログ発想で使いこなすそのエピソードも彼らしくて微笑ましい。
2009/11/13(小吹隆文)
佐伯慎亮『挨拶』

会期:2009/10/17~2009/11/21
FUKUGAN GALLERY[大阪府]
最近は写真だけでなく映画の撮影も担当するなど、ますます評価と活動の幅を広げている佐伯慎亮。作品集の発売を記念した本展では、過去の作品からセレクトされた大量の作品が画廊壁面を取り囲むように展示された。いわばベスト・オブ・佐伯だ。喜び、悲しみ、怒り、笑い、生と死など、この世で遭遇するありとあらゆる感情・体験を丸ごと飲み込んで吐き出したかのような彼の作品は、一言でタイプをくくり切れない混沌が大きな特徴だ。そして、作品に身を浸すうちに、身体の内からポジティブなパワーがふつふつと湧いてくる。この汚濁と清浄が一体化したかのような感覚こそ佐伯作品の最大の魅力ではなかろうか。作品を見るうち、泥の中から開花する蓮の姿を連想した。
2009/11/13(小吹隆文)


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