artscapeレビュー

山村雅昭「ワシントンハイツの子供たち」

2012年10月15日号

会期:2012/08/27~2012/09/09

Place M[東京都]

山村雅昭は1939年、大阪生まれ。1962年に日本大学芸術学部写真学科卒業後、フリーの写真家として活動した。1976年に第一回伊奈信男賞を受賞した「植物に」のシリーズなどで知られている。だが、1987年に急逝してからは、あまりその作品が取りあげられることはなかった。地味だがいい仕事をしていた写真家が、こんなふうに再評価され、写真展が開催されるというのはとてもいいことだと思う(同時に写真集『ワシントンハイツの子供たち』山羊舎も刊行)。
今回展示されているのは、山村が日本大学在学中の1959~62年に撮影していた「ワシントンハイツの子供たち」のシリーズ。ワシントンハイツは終戦直後から1960年代にかけて、現在に代々木公園、NHK放送センターのあたりにあった広大なアメリカ軍居住施設である。いわば「日本の中のアメリカ」がそこにはあったわけで、山村は特にそこに住む子供たちにカメラを向けていった。会場には六切り~四切りサイズのプリントが70点あまり並んでいたが、それを見ると若い山村が単なるエキゾチシズムを越えて、「子供」という存在のなかに潜む未知の領域に触手を伸ばそうとしていることがわかる。ハロウィーンの仮面をかぶった子供の写真が多いこともあって、石元泰博がシカゴで撮影した同じような写真を連想してしまう。だが、山村のアプローチは石元のそれとも違っている。わざとハイコントラストにプリントしたり、構図を不安定にしたり、極端なクローズアップを試みたりして、紋切り型の「子供写真」に陥るのを避けているのだ。スナップというよりポートレートというべき山村の写真は、石元より揺れ幅が大きく、彼自身の身体性がより強調されているともいえる。

2012/09/02(日)(飯沢耕太郎)

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