2017年09月15日号
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artscapeレビュー

こq『地底妖精』

2017年07月01日号

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会期:2017/06/10~2017/06/11

SCOOL[東京都]

美術作家高田冬彦の制作した黒い芋が何本も宙に浮いている。その中、永山由里恵は膨大なセリフを早口で、強烈な身体表現とともに発話し続ける。寓話的な物語。女は妖精と戯れる。しかし、穢らわしいもぐらという相手もいる。妖精は空気に似て「タンパク質で構成されていない」存在だ。妖精に憧れる女の体はしかし、タンパク質製だ。だから黒い芋も食べるし、おならもでる。もぐらはそんな女(=地底妖精)にとって厭わしい獣だが、同時に、欲情の対象でもある。妖精ともぐらのあいだで女の欲望は揺れ動く。これはつまり、女性の抱く理想と現実の寓話だ。これまで市原が描いてきた世界観を、本作はシンプルに図式化した。想像に過ぎないが、市原自身が自分との距離を以前より楽に取れるようになった、なんてことがこの「図式」性の成立背景にあるのかもしれない。その分、観客とのあいだにも以前とは異なる距離が生まれていた。もともとQの役者(登場人物)は観客と向き合うことが多い。おのずと役者(登場人物)は観客に語りかけることになる。けれども、これまではさすがにそれによって「第四の壁」が消えることまではなかった。それが本作では、「第四の壁」が崩れ、観客の何人かに永山はひとりずつ話しかける場面があらわれた。高田の起用も、図式的な構成も、永山の話しかけも、劇団Qの「アナザーライン」としてこqという余地を作ったからこそ、生まれたものなのだろう。少女の妄想を少女の市原が描いていたのが、これまでのQだった。その切実な、キリキリした表現も大変魅力的だったが、いまの、少女の妄想から少し距離が取れている市原の余裕は、これまでとは別の仕方で、Qの描く世界を豊かにして、それも魅力的だった。市原のなかで新しい劇表現が始まろうとしている。そんな気がした。

2017/06/10(土)(木村覚)

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