2018年12月15日号
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artscapeレビュー

ヤノベケンジ《サン・チャイルド》

2018年09月15日号

福島市子どもの夢を育む施設こむこむ館[福島県]

ネットで炎上していたので、仙台に向かう途中、福島駅に寄って、公共施設「こむこむ」に設置されたヤノベケンジの《サン・チャイルド》を見てきた。あまりの騒動ゆえに、駅前の広場で誰でも見えてしまうような立ち方を想像すると、いささか拍子抜けするだろう。なぜなら、距離的には確かに駅の近くだったが、大きな駐車場を挟んで、かなり脇のほうに位置しており、お昼でも人通りがあまり少ない場所だからである。そもそも、筆者はもう数え切れないくらい福島駅を利用したが、こむこむという建物の存在を今回初めて知ったくらいだ。彫刻の立ち方について、正確に言うと、こむこむの敷地内というか、手前の列柱のあいだに挟まっている。つまり、あまり良い設置法ではない。したがって、たとえ正面を自動車で通り過ぎても、斜めからは見えづらく、正面を通る瞬間にだけ全貌が見える。もちろん、こむこむを使う使用者や、この前の道路を歩いて駅に行く人(あまり多くなさそうだが)は視界に入るはずだ。そして今回は、正確な場所に関係なく、福島に存在することが気に食わない人が(ネット上で?)多い。

ヤノベケンジは個人的な妄想をサブカルチャー×SF的に膨らまし、神話的な世界をつくるアーティストであり、チェルノブイリや第五福竜丸など、原子力を扱った作品を発表してきた。20世紀末は終末思想と共振するアイロニカルな表現も多かったが、311を受けた《サン・チャイルド》はかなりストレートな作品である。とはいえ、具象的な表現ゆえに、さまざまな批判を受けた。気持ち悪いという意見もあるが、キャラのデザインではなく、アートだから全員に好かれるものではないだろう。これまで筆者は、福島空港、東京、名古屋、茨木、高松などの各地で、《サン・チャイルド》が宗教なき大仏のように立つのを目撃したが(いずれも無料ゾーンだった)、問題になったことはなかった。が、今回は市長が設置を決めたことで政治化し、さらに原発をめぐるイデオロギーの闘争に巻き込まれた。これはいまや巨大な彫刻も、関係性のアートのように、地元との話し合いが必要だったことを意味する。いったん撤去が決まったが、これから対話の場が生まれることを期待したい。

ヤノベケンジ《サン・チャイルド》


こむこむの列柱の間に設置されている(左)、福島空港で展示された《サン・チャイルド》(福島現代美術ビエンナーレ2012)(右)

2018/08/21(火)(五十嵐太郎)

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