artscapeレビュー

試写『顔たち、ところどころ』

2018年09月15日号

シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開[全国]

世界中の建物や車両に大きな顔のモノクロ写真を貼り付けるストリートアーティスト、JR。その彼が、ヌーヴェルヴァーグの女性監督のひとりアニエス・ヴァルダとともに、荷台を巨大カメラに改造した車でフランスの片田舎を旅しながら、人々の顔を撮って作品を残していく道行きを描いたロードムービー。若くてスラリとしていつも帽子とサングラスを外さないJRと、小さくてずんぐりむっくりで髪の毛を2色に染めたおばあちゃんのアニエスの視覚的対比が、まず目を引く。なんでこの2人が一緒に旅することになったのかとか、最後にアニエスの旧友ゴダールに会いに行ったなんて話はこの際どうでもいい。興味あるのはJRがどこにどうやって写真を貼っていくかだ。

まず、さびれた炭鉱街で坑夫の昔の写真を借りて引き伸ばし、空家の外壁に貼る。ゴーストタウンに近隣住人の顔写真を飾ってパーティーを開く。浜辺に打ち捨てられたトーチカの残骸に、アニエスが昔撮った思い出の写真を残す(翌朝には満潮で流されていた)。積み上げたコンテナの表面に港湾労働者の妻たちの全身写真を貼る……。だいたいいまちょっとさびれていたり元気がなかったりする場所や人ばかりを選んでいる。なのにみんなよく協力してくれるもんだと感心する。ノリがいいというかユルいというか。途中ポリスが「写真を貼るのはいいが、足場を組むのはダメだ」と注意すると、JRは「罰金はアニエスに、ホメ言葉はぼくに」とかわし、ポリスもにこやかに応じる。こうした「ウィット」と「おめこぼし」精神が愉快で痛快なストリートアートを育んでいるのだ。そんなことがわかっただけでもよかった。

2018/08/29(村田真)

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