artscapeレビュー

北川健次「リラダンの消えた鳥籠」

2011年03月15日号

会期:2011/02/09~2011/02/27

tmh.SLEEP[東京都]

北川健次はキャリアのある版画家、オブジェ作家。以前から作品のなかに写真が登場することが多く(例えばマイブリッジの動物の動きの連続写真)、しかもそれがとても的確に使われているのに注目していた。写真にかなり関心があるとは思っていたのだが、すでに何度か個展の形で写真作品を発表しているということを本人からうかがってびっくりした。今回の個展で発表された作品を見ると、たしかに余技の範囲を超えた仕事である。
恵比寿の瀟洒なジュエリー・ショップの壁に並んでいるのは、2年前にヴェネツィアで撮影したというスナップショット。建築物、彫刻、衣裳などの一部を自在に切り取って、光と影のコントラストの強いモノクローム(一部カラー)の画面にまとめている。プリントの段階で画像を重ねている作品もあるが、むしろストレートなプリントの方が多い。版画やオブジェ作品のように、コラージュ的にイメージを繋ぎ合わせたり衝突させたりする効果を狙うよりも、カメラのファインダーに飛び込んでくる被写体を狙い撃ちしているという印象だ。偶発性に身をまかせる方が、スナップとしての強度は上がってくるという逆説をきちんと踏まえているということだろう。「〈写真〉とは、夢と現実とのあわいに揺蕩う、一瞬の光との交接である」。案内状に記された北川のコメントだが、その通りとしかいいようがない。写真家としての構えが最初からきちんとできあがっているということがわかる。イタリアやフランスに題材を求めるのもいいが、むしろもっと日常的な場面に「一瞬の光との交接」を探り当ててほしいとも思う。
なお、会場の隣室にあたるLIBRARIE6でも同時期に北川の「十面体─メデューサの透ける皮膚のために」展を開催している。こちらは手慣れた版画+ドローイング作品だが、写真作品とはまた違った錬金術的なイメージ操作を愉しむことができた。

2011/02/10(木)(飯沢耕太郎)

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