2018年07月15日号
次回8月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

香港と深圳の新しい名所《オーシャンターミナル・デッキ》《深圳海上世界文化芸術中心》ほか

[中国]

深圳都市建築ビエンナーレが開催されているタイミングで数年ぶりに香港を訪れた。香港から深圳に移動するには、現在もいったんは電車を降りて、パスポート・コントロールを歩いて通過するが、将来これがなくなれば、2つの都市はさらに一体感を強めるだろう。今年は急激な都市化を象徴する城中村を会場としており、展示そのものよりもビエンナーレを口実にして、普段は立ち入らないようなエリアを体感できたことが印象深い。足を運んだ南頭古城も、古い城を村が包み、さらにその周囲が完全に都市化した場所だった。また昨年オープンしたばかりの槇文彦が設計した《深圳海上世界文化芸術中心》は、周囲がテーマパーク的なエリアで、派手な建築が並ぶだけに、モダニズムをベースにした白い建築がさわやかに映った。歴史的なコンテクストがないなかで、周辺環境と応答しつつ、あちこちに出入り口を設け、内部にも抽象的ながら、街並みのような空間をつくっている。

一方、香港の九龍サイドにあるハーバーシティのモールを抜けて、大型客船が横付けするオーシャンターミナルの先端にノーマン・フォスターによる増築が行なわれ、《オーシャンターミナル・デッキ》として昨年オープンした。素晴らしいデザインである。立地の良さを最大限に生かし、乗船客やレストランの客だけでなく、誰にでも開かれた香港の絶景を堪能できる空間的な仕掛けを、いくつかの高さのレベルで付加している。無駄な装飾やわざとらしい造形はない。建築家とは、かくあるべきだという見本のような作品である。話題の美術館、《M+》のオープンは遅れていたが、工事現場の横に「M+パヴィリオン」が設置されているのを知り、見学した。西文化区はまだ開発中のため、けっしてアクセスは良くない。公園を抜けると、途中から柵で構成された迷路を歩く。ヴェネツィアビエンナーレ国際美術展に参加したサムソン・ヤンの個展を開催しており、災害支援ソングをネタにしたおもしろい作品で、空間のつくり込みもよかった。

《オーシャンターミナル・デッキ》



《深圳海上世界文化芸術中心》


「M+パヴィリオン」

2018/02/21(水)(五十嵐太郎)

「せんだい・アート・ノード・プロジェクト」第2回アドバイザー会議

会期:2018/02/12

せんだいメディアテーク[宮城県]

せんだいメディアテークにて、アートノードのアドバイザー会議に出席した。この日は2017年度の活動と2018年度の計画が報告され、川俣正の貞山運河にかける「みんなの橋」の進捗状況(ちょうど7階にて展示中だった)、藤浩志による「雑がみプロジェクト」、東北リサーチとアートセンター(TRAC)のイベント、複数の企画者によるTALKシリーズなど、多様なプロジェクトが動いていることがうかがえる。もっとも、メディアとしてのタブロイド紙やホームページなどを閲覧しないと、それぞれの企画の参加者に対し、これらが全体としてアートノードという枠組のアイデンティティをもっていることが理解しにくいのではないかと思った。こうした疑問に対して、せんだいメディアテークはあえてそれでよいと考えている。すなわち、もともと全国で乱立する芸術祭とは一線を画するべく、特定の期間に展示とイベントが集中させて、ピークをつくる方法を避け、リサーチをベースにした複数のプロジェクトがいつも同時進行しているスタイルを選んだからだ。

会議の終了後は、TALKシリーズを運営した7名による総括の公開会議が行なわれた。いわば反省会をかねたメタ・イベントなのだが、予想以上に参加者が多く、市民の関心の高さを感じた。これも改めてギャラリー、古書店+カフェ、舞台制作などを営むメンバーが一堂に会して、全体を俯瞰すると、アート、音楽、文学、映画、民俗学など、多様なジャンルのイベントがあちこちの場所を活用しながら開催されていたことがわかる。おそらく、それぞれの個性的な企画者に参加者もついていると思われるが、アートノードを契機にして、普段は聴講しなかったようなタイプのトークにどれくらい足を向けたのかが興味深い。それこそが結節点としてのアートノードである。もちろん、企画者同士が同じ場を共有し、交流することも、これまであまりなかったから、まずはその第一歩となった。


展示風景

川俣正「みんなの橋プロジェクト」(左)と「みんなの船」(右)の構想模型

2018/02/18(日)(五十嵐太郎)

空間デザイン機構シンポジウム「空間デザインの新時代に向けて」

会期:2018/02/15

Gallery AaMo[東京都]

このシンポジウムは、JCD(日本商環境デザイン協会)、DSA(日本空間デザイン協会)、SDA(日本サインデザイン協会)、NDF(日本ディスプレイ業団体連合会)という4つの組織が連携し、2005年に発足した空間デザイン機構が企画したものである。同組織は、これまでも『年鑑 日本の空間デザイン』を共同で刊行していたが、今回は情報を広く社会に発信することを目的にシンポジウムが企画された。内藤廣の基調講演は、渋谷を含む高層化する東京の再開発を山手線のネックレースと位置づけ、一様にならず、各地の個性を残しながら進めるべきだという。加えて、かつてのバブル崩壊前夜の雰囲気もあり、ちゃんとした計画をたてないと、確実に失敗するプロジェクトも出るだろうと警告も行なった。内藤は自らも渋谷の再開発に関わっているが、そのヴィジョンを見ると、かつて坂倉準三が都市デザインを意識しながら、いくつかの垂直のコアを伴う渋谷のデッキ構想を提出したことが想起される。

後半のパネルディスカッション「空間デザインの価値とその将来構想」において、筆者はモデレータを担当した。そもそも「空間」というキーワードは、美術史のバロック研究から注目され、建築の分野では、ギーディオンの著作『空間・時間・建築』でも核となり、建築の諸分野を統合する概念としても提唱されたものである。登壇者の橋本夕紀夫は、1960年代以降の倉俣史郎や杉本貴志の偉業を振り返り、インテリア・デザインのレガシーを強調し、廣村正彰は、建築家らとのコラボレーションを通じたサインの空間進化形のプロジェクトを報告した。資生堂の山本尚美は、最新のテクノロジーを生かしたメディア・アートにも近いディスプレイのデザインを紹介し、三菱地所の井上成は、大手町などで展開する使い手の視点を重視したまちづくりを語る。全体の総括としては、歴史を振り返りながら、異分野との融合をめざしていく空間デザインの未来が共有された。なお、建築や美術に比べて、懇親パーティが華やかだったことも印象的だった。乃村工藝社が新潟の劇場を担当した縁で、NGT48が歌と踊りを披露し、モデル12人による着物のファッションショーなどが行なわれたからである。

2018/02/15(木)(五十嵐太郎)

アーツ・チャレンジ2018

会期:2018/02/14~2018/02/25

愛知芸術文化センター[愛知県]

公募の審査を担当したアーツ・チャレンジのオープニングに出席した。会場となる愛知芸文センターは、現在、改修中だが、もともとこの企画は非展示室を使うことを主旨としていたことから、大きな影響は受けなかった。むろん、いくつかの展示場所は減ったが、作家の数が減ったことで、より精鋭が揃う結果となった。今年は第10回のアーツ・チャレンジになるが、アートの想像力によって、まだこんな空間の使い方もあるのかという発見がもたらされたり、逆にアーティストには普段のホワイト・キューブと違う空間に挑戦してもらうケースもあった。

まず地下の入口では、椋本真理子のポップでミニマルな土木彫刻(ダムやプール)が出迎える(いずれも円形であり、吹き抜けの上部から見ると面白い)。続いて、左のアートプラザ内のビデオルームでは、山本愛子が繭糸を使い、音を可視化する繊細なランドスケープを四畳半サイズの台の上で構築する。そして小宮太郎がさまざまな色のマスキングテープを駆使して、既存のドアを擬態する作品(このエリアは通常、絵画を置く)、通路に並ぶ8つの小さな展示ケースを漫画のコマに見立てた小笠原周によるボクシングの彫刻群、物語化されないドローイング群でスペースXを埋め尽くす小松原智史(期間中も会場にいて、描き続け、作品が増殖した)は、これまでのアーツ・チャレンジにない場所の使い方を提案した。音に誘われ、外部の地下階段を上ると、わらべうたのリサーチをもとにした佐藤美代による完成度が高い映像作品がさまざまなバリエーションを用意し、鑑賞者を飽きさせない。一通り映像を見たあと、階段を下りると、今度は大きな箱からピンポンがゆっくりと落ちていく段差を利用した道楽同盟の作品に気づく。最後は𠮷田絢乃である。渋谷のMONSTER展では小品だったが、今回、彼女はひだと地層の絵が壁を覆う大作に挑戦した。


椋本真理子《Disc-type-Dam 2 / POOL(big pink)》


小宮太郎《doors》

小松原智史《コマノエ》

𠮷田絢乃《レイヤー》

2018/02/14(水)(五十嵐太郎)

会田誠展「GROUND NO PLAN」

会期:2018/02/10(土)~2018/02/24(土)

青山クリスタルビル[東京都]

表参道にて、ビルの2フロアを使い切った気合いの会田誠展を見た。15年ほど前にミヅマアートギャラリーで遭遇した新宿御苑計画をはじめとして、もうひとつの東京都庁舎や新国立競技場、アクアラインの風の塔に対する具象的なオルタナティブ、アイコン建築を切望するマグカップなど、さまざまな東京/日本に対する破天荒な空間的な提言が一堂に会する。ヨーゼフ・ボイスなど、美術史へのオマージュを散りばめながら、痛快にいまの建築・都市を嗤う。だが、とても批評的である。かつてバブル期には世界中のアヴァンギャルドを呼び寄せ、大胆なデザインに実現のチャンスを与えたが、いまや東京はクレームを言われない建築や開発ばかりに縮こまり、当たり障りのないコンサバティブなデザインばかりになってしまった。そうした建築界に殴り込みをかけるような展覧会である。建築の卒計でも、ぶっ飛んだアイディアを見たいと思っているが、おそらく学内でつぶされるのだろう。

むろん、過去にもアーティストによる空間の提案がなかったわけではない。例えば、荒川修作は自らがデザインした集合住宅を湾岸につくろうとしていたが、「本気」だった。当時、建築家が東京計画を発表しても、そうした力強さが感じられなかったことを考えると、その本気はインパクトがあった。一方、会田は本当に実現するという切実さとは違う持ち味をだしている。また皇居に巨大美術館を建設するという彦坂尚嘉の皇居美術館空想も大胆なアイディアだったが、会田によるマニフェストの文章は、天皇や皇居の名前をだすのは身の危険を感じ、憚れるといった主旨から、はっきりと名言せず、示唆するにとどめている。これも全共闘の時代を生きたアーティストとの世代差なのだろう。とはいえ、会田の腰が引けているわけではない。安倍首相とおぼしき人物による日本孤立化の演説(過去にはこたつで飲んだくれているビンラディンも演じた)などの作品を発表しているように。なんちゃってという姿勢を入れることに現代のしたたかさを感じさせる。


《NEO 出島》

《「風の塔」改良案:「ちくわ女」完成予想図》

《建築雑誌「BLUE’S MAGAZINE」のために描いた東京オリンピック2020メインスタジアムのイラスト》(左)、《「TOKYO2020」ドローイング》(右)

《新宿御苑大改造計画》


公式サイト:http://www.obayashifoundation.org/event201802.html

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2018/02/11(日)(五十嵐太郎)

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