artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
田代一倫 写真展 Hijack
会期:2009/03/10~2009/03/24
1975年7月28日、羽田から千歳に向かっていた航空機が17歳の高校生に乗っ取られ、「ハワイに行け」と要求された事件をもとに、その犯人の足取りを追跡しながら撮影された写真。犯罪者の心の闇に立ち入ろうとする者は、過剰にロマンティックな思い入れを表出してしまいがちだが、田代の写真はそうした欲望を禁じているかのように、いたって中庸である。田代の写真が見せているのは、深い闇は決して特殊で異常な世界に隠されているのではなく、むしろ平板な世界の中のいたるところに広がっているということのように思えた。
2009/03/24(火)(福住廉)
広島!
会期:2009/03/20~2009/03/22
Vacant[東京都]
広島の上空に「ピカッ」と落書きして大目玉を喰らったChim↑Pomが、広島市現代美術館での個展で発表する予定だった作品を原宿で公開した展覧会。飛行機雲で描いた「ピカッ」の映像と写真、実物大の丹頂鶴のフィギュア、そしてことの発端となった中国新聞の記事を模写した作品などを展示した。映像をじっくり見てみて思い至ったのは、青空に薄い線で描かれた「ピカッ」の三文字が、原爆の再現劇として読み取られかねないことは事実だとしても、その一方で、のどかで平和な暮らしを満喫する私たちの現代社会のありようを端的に表現しているということだ。もともと薄い飛行機雲だということを差し引いたとしても、たとえば「ピ」は「ッ」が描かれている頃にはすっかり消えてしまっているほど、三つの文字は、どれもはかない。マンガのオノマトペであれば、シャープな描線によって輪郭が明確に縁取られるのだろうが、「ピカッ」はマンガ的ではあるとはいえ、それほど力強くはなく、むしろか弱い。青空という広大な空間にたちまち呑み込まれてしまう、薄く、細く、短命な描線。これこそ、私たちの時代の原爆美術が内側に抱えている表象不可能性の現われではないだろうか。今回の個展によってChim↑Pomが原爆美術にとっての新たな道のりを切り開いたことはまちがいない。ベッドメリーのように吊るされた千羽鶴のなかで群れをなす丹頂鶴たちは、その未知の道を模索しながら飛んでいく彼ら自身であり、私たち自身でもある。
2009/03/21(土)(福住廉)
イセザキ映像祭2009
会期:2009/03/13~2009/03/22
ザキ座ほか[神奈川県]
横浜の伊勢佐木町商店街の店舗や路上をミニシアターに見立てた映像祭。映像作家の本田孝義をコーディネーターとして、「東京ビデオフェスティバル傑作選」「カフェ放送てれれin伊勢佐木」「かながわニュース上映会」の三つのプログラムのもと、100本以上の映像作品が上映された。今回見たのは、1978年以来、アマチュアの映像表現を大々的に取り扱い、今年はじめに惜しまれつつ終了した「東京ビデオフェスティバル」の傑作選から11本。なかでも、老老介護の現場を淡々と描いた内田リツ子による『共に行く道』が、とてつもなくすばらしい。来る日も来る日も、旦那の介護に追われる家庭内の模様をレポートするような映像は、老老介護の過酷な現場の実情を正確に伝えるとともに、それらがユーモアをまじえて物語化されているせいか、作家にとってはみずからを相対化する表現にもなっているように見受けられた。ふだんは物静かなくせに、デイケアサービスの施設では大声でカラオケを披露する旦那にたいする愛憎半ばする複雑な心境は、老老介護という特殊な現場を越えた広がりを持つにちがいない。会場には数人しか来場していなかったが、もっと大きな会場でたくさんの人たちに見てほしい。近年稀に見る傑作である。
2009/03/21(土)(福住廉)
このはな咲かせましょう
会期:2008/12/05~2008/12/07
此花区梅香・四貫島エリア[大阪府]
昨年末に大阪の梅香町でのアートプロジェクトに参加した淺井裕介が、同地に長期滞在しながら制作した作品がいまも見れる。道路の白線用の素材を植物のかたちに切り抜き、それらを路上やマンション、廃屋の壁面に焼きつけた。同じ手法で制作した「とまれ」という文字の、なんと生き生きとしていることか。なかでも、未来美術家の遠藤一郎とともに制作した《このはな未来へ》は、商店街の壁面に描いた大作だが、長い板を並べた壁面にバーナーで焦げ目をつけながら線を描くなど、技法に工夫を凝らしながら迫力の画面を作り出した。
2009/03/20(金)(福住廉)
Yusuke Asai“ぐらぐらの岩”
会期:2009/02/21~2009/03/29
graf media gm[グラフメディア・ジーエム][大阪府]
「Masking Plant」や「泥絵」で知られる淺井裕介の新作展。会場内に設置されている小屋の内部を泥絵で埋め尽くすとともに、彼が参加した大阪・梅香でのアートプロジェクト「このはな咲かせましょう」の制作風景を撮影した写真などを発表した。おしゃれ空間に遠慮したわけではないだろうが、これまでの淺井の活動からすると、若干大人しい印象は否めない。もっと大きく、もっと容量のある空間で、たっぷりと時間をかけて制作した作品を見てみたい。
2009/03/20(金)(福住廉)