2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2013年09月15日号のレビュー/プレビュー

SHORT PEACE

会期:2013/07/20

大友克洋の『ショートピース』は短編のオムニバスだが、『火要鎮』における空間の表現が面白かった。近世の日本を題材とする作品は三編含まれていたが、これは特に日本美術がもつ巻物形式や吹抜け屋台の空間表現を、あえてアニメに移植し、そのフレームの中で人を動かしながら、伝統を活用している。その結果、通常の映画にはない、画面の斜めスクロール、人の瞬間移動と同時存在なども起き、独特の時空表現をもたらしている。

2013/08/01(木)(五十嵐太郎)

ヤドカリトーキョー Vol.09「秘密の部屋──恋する小石川」

会期:2013/08/02~2013/08/04

ヘルシーライフビル[東京都]

作品の展示場所を求めて都内を徘徊する「ヤドカリトーキョー」。その9回目の「ヤド」となったのが、小石川植物園の正面に建つ一見なんの変哲もないヘルシーライフビルだ。通常こういう場所で作品を見せるとき、壁を壊したり床をはがしたりしながら空間全体を変えてしまうような、いわゆるサイトスペシフィックなインスタレーションを期待するもんだが、ヤドカリトーキョーにはそれは期待できない。だって彼らはただヤドをカリるだけで、終わったらきれいに現状復帰して返さなければならず、ムチャはできないのだ。じゃあ貸し画廊の展示とどこが違うの?と突っ込まれるかもしれないが、カリるヤドが「フツーのビル」じゃないところがヤドカリトーキョーなのだ。今回のヘルシーライフビルも最初はフツーの事務所ビルだったらしいが、その後改装され、直前までシェアハウスとして使われていたという。シェアハウスとは敷金、礼金、保証人など不要の安くて狭いレンタルルームのことだが、だれが入居しているのかわかりにくく、一部は「脱法ハウス」とも呼ばれ、隣近所の評判はあまりよくない。このビルも2~4階の各フロアがそれぞれ約4畳ずつに細かく分割され、談話室も含めて部屋は計24室。ここに約40人のアーティストが作品を展示している。基本的に1部屋にひとり、ほかにキッチン、トイレ、シャワー、廊下などにも作品がある。だいたいみなさんおとなしく絵や写真を飾るだけだが、なかには残されたベッドや机を使ってインスタレーションしたり、トイレで映像を流したりするやつもいて楽しい。おもしろかったのはバーバラ・ダーリン(日本人)で、シャワールームではシャワーの水を出しっぱなしにし、キッチンでは大鍋に入れたチキンカレーを食べ放題に、部屋ではベッドの上にロデオマシーンを置いて、スイッチを入れるとズコズコ振動する近所迷惑な3部作を出していた。水道水を出しっぱなしにするのはかつて遠藤利克が、最近では原口典之もやってるいわば伝統芸。カレーを食べさせるというのもリクリット・ティラヴァーニャの得意技だ。ロデオもきっとなにかオリジナルがあるはず。つまりバーバラは現代美術の「名作」を場所に合わせて縮小し、広く「シェア」しようとしているのだ。まさにアートのシェアハウス。

2013/08/02(金)(村田真)

Semantic portrait(セマンティック・ポートレイト)

会期:2013/07/29~2013/08/03

Oギャラリー eyes[大阪府]

ポートレイトをテーマにした展覧会。出品作家は松本良太、丸山宏、寺脇さやか。松本はインターネットのSNSなどで仮の“自分”として画面に表示される人型のアイコンをモチーフに、自分自身というイメージにアプローチする作品を発表。デフォルメされた目、鼻、口のない人物の頭部と色鉛筆で濃く塗りつぶされた色面のドローイングは一見無機的なイメージだが、フリーハンドの線の歪さや捩れなど、複雑な奥行きを感じさせる表現がちぐはぐな印象を与えて面白かった。丸山の作品は水彩とアクリル絵の具による肖像画。どの人物も霞がかかったように顔の部分が朧げでそれぞれの表情は不明瞭なのだが、仕草や動作の描写がその場の空気を伝えるように美しく、視線が画面の奥へと誘われる。写真を元に描いているのだそうだが、対象の人物と作家との距離感、時間など、臨場感をもって追体験するような作品だった。寺脇の描く人物のリアルな表情や、画面全体の色彩はやや重たく不気味な印象があるが、よく見ると全体にタッチは軽やかでスピード感にもあふれている。心の内奥を垣間見るように不安や影が過るイメージも魅力的だ。みな80年代生まれの若い作家。作品も各数点ずつだったが、他人との関係性や人間の身体など、作家それぞれの表現のテーマと視点が引き出されたバランスの良い展示で印象に残った。


展覧会「セマンティック ポートレイト」2013 Oギャラリーeyes

2013/08/03(土)(酒井千穂)

Art Court Frontier 2013 #11

会期:2013/07/05~2013/08/03

ART COURT Gallery[大阪府]

美術界の第一線で活躍中のアーティスト、キュレーター、コレクター、ジャーナリストらが推薦者となって出展作家を1名ずつ推挙する毎年恒例の企画グループ展「Art Court Frontier」。11回目となる今回は、10名の推薦者により、内田洋平、榎真弓、笠間弥路、コタケマン、澤崎賢一、下道基行、杉山卓朗、前谷康太郎、山下雅己、芳木麻里絵の10作家が出展した。映像、絵画、インスタレーションなどさまざまな表現が並ぶ会場で、今年、もっとも印象に残ったのは澤崎賢一の映像インスタレーション。それは戦時中、「人間魚雷」の開発者であったという祖父の逸話と、幼いころ、海に得体の知れない恐怖心を抱いていたという澤崎自身の感情体験を題材にした作品で、所々で軍服を着た男(澤崎本人)が“海の怪物”の絵を描きだしている姿も映し出される。この“海の怪物”の絵の登場が、いまとなっては知り得ない戦時中の祖父の体験、澤崎の体験、それぞれの価値観や時間をひとつの物語として結びつける鍵になっていて、こちらの連想を掻き立てるのだった。人間魚雷を開発した祖父と“海の怪物”との関係にまで私の想像が至らず消化不良の感も残るのだが、戦争という重いテーマ、その意味でもさまざまな解釈ができる。もう一度じっくり見ればよかった。

2013/08/03(土)(酒井千穂)

磯辺行久──環境・イメージ・表現

会期:2013/08/03~2013/11/04

市原湖畔美術館[千葉県]

千葉県市原市に美術館ができたというので見に行く。市原市といっても広うござんして、房総半島のほぼど真ん中、内房線で五井まで行き小湊鉄道に乗り換えて約40分、高滝駅からさらに徒歩20分ほど、ダム湖の高滝湖のほとりに建っている。風光明媚といえば風光明媚だが、グーグルマップで検索すると周辺には虫食いのごとく何十ものゴルフコースがひしめいてるのがわかる。最近、近くに圏央道が完成し、西へ走ればアクアラインを通って東京、横浜、そして羽田空港と結び、北へ向かえば成田空港に出られる。この地の利を生かして来年には「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」を開くという。また「国際芸術祭」かよ。でも北川フラムさんが手がけるのでおもしろくなるかもしれない。また「北川さん」かよ、ともいえるが。そんな計画を見据えての開館だが、じつは建物自体はバブル後に建てられたもので、今回増改築してのリニューアルオープンとなった。そのせいか、湖上にはひと味違う彫刻が立ってたりして、まあいろいろ裏があるというか、物語性にあふれた物件ではある。円弧と正方形を組み合わせたコンクリート打ちっぱなしの建築は、あまり使い勝手がよくなさそうだが、「磯辺行久展」をやってるほか、KOSUGE1-16、クワクボリョウタ、ヴィト・アコンチの作品も展示されている。「環境」が大きなテーマか? いまいち脈絡がつかめない。たしかに国際芸術祭でもないかぎり2度と行かないだろうなあ。

2013/08/03(土)(村田真)

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