artscapeレビュー

2009年05月15日号のレビュー/プレビュー

片岡義男「撮る人の東京」

会期:2009/05/27~2009/06/08

ペンタックス・フォーラム[東京都]

執筆日:2009年4月30日
6月1日の「写真の日」を中心に、都内各地でイベントや展示が展開される「東京写真月間」。今年はマレーシアの写真家たちの展示のほか、「人はなぜ旅に出るのか─出会い・発見・感動」をテーマに国内作家の写真展が開催される。そのなかで、東京・新宿のペンタックス・フォーラムで展示される片岡義男の「撮る人の東京」に注目している。
片岡はいうまでもなく、小説家。翻訳家として著名だが、写真家としてもとてもいい仕事をしてきた。『日本訪問記』(マガジンハウス、1992)を皮切りに、写真集もたくさん刊行している。特に執着しているテーマは、人生の大部分を過ごして来た「故郷」でもある東京である。『東京22章』(マガジンハウス、2000)、『ホームタウン東京』(ちくま文庫、2003)など、見慣れた街並を、あたかも細部まで緻密に作り上げられた映画のセットのように捉え、距離感を保った視点で撮影する写真をコンスタントに発表してきた。その小説と同じように、写真もまた端正かつ明晰なたたずまいを保っている。写真家としての片岡義男は、もっときちんと論じられていい存在ではないかと思う。
今回の写真展では、これまで撮影してきた東京の写真から、「旅人」の視線であらためて選び直した作品を5つのパートで展示するとともに、はじめてデジタルカメラで撮影した画像を、スライドショーの形で発表する。写真による「東京小説」が、デジタルカメラを使うことでどんなふうに変化していくのかが楽しみだ。なお写真展に合わせて、新しい写真集『名残りの東京』(東京キララ社)も刊行される。

2009/04/30(木)(飯沢耕太郎)

『ジャン・ヌーヴェル』

発行所:アップリンク

発行日:2009年5月8日

ジャン・ヌーヴェルとその建築に関するドキュメント映像。ヌーヴェルの建築ほど映像が似合う建築はなかなかないだろう。写真で見る建築よりも、また直接見るよりも、映像で見るヌーヴェル建築こそが、彼らしさを感じさせるといえる。《ルツェルン文化会議センター》《カルティエ財団》《ギャラリー・ラファイエット》《アラブ世界研究所》《リヨンのオペラ座》など、特に90年代の代表作などを中心に、ヌーヴェル建築が彼自身の語りとともにまとめられている。映像の冒頭に現われるように、サブタイトルは「奇跡の美学」。そう、ヌーヴェルの建築には奇跡が内在している。光の奇跡、構造の奇跡、アイディアの奇跡。それらの「奇跡」が、ヌーヴェルの建築では現実に混じり込んでいつのまにか現われていることを、この美しい映像を通して見ることが出来る。何より、ヌーヴェルが哲学的ともいえる言葉で自作を語っている様子は、見応えがあるだろう。
ところで本DVDのなかには、代表作のほか、わりと知られていない初期の《アンネ・フランク高校》やAJN(アトリエ・ジャン・ヌーヴェル)内部の映像なども含まれている。《アンネ・フランク高校》(1980)は、《アラブ世界研究所》(1987)のさらに7年前の作品である。他の作品ほど目立たないかもしれないが、個人的にはこの二作品に、ファサードの連続性と進化を見たように思った。つまり映像的なスクリーンとして建築から離脱する直前のファサードである。非物質的あるいは映像的に至る以前のヌーヴェル作品により、他の作品の特徴が際立っているともいえる。またAJN内部でのヌーヴェルの立ち振る舞いの様子が見られる映像というのは、ほかに知らない。
このフィルムを撮ったベアト・クエルトは、エレクトロニック・アーティストであるという。短編の実験映像を撮り、自ら音楽を作り、また写真も撮っている。いわゆる映画監督ではない。しかし20代の頃からドキュメンタリーを撮りはじめ、1996年以降、建築家のテレビ・ドキュメンタリーを撮っている。ドキュメンタリーの映像自体は特に実験的ではないが、実験的建築の映像的可能性を引き出すような映像ではないかと思った。他にも多くの建築家や建築の映像を撮っているそうなので、ぜひ彼の撮ったほかの建築家のフィルムを見てみたいと思う。

2009/04/30(木)(松田達)

建築家 坂倉準三展─モダニズムを生きる:人間、都市、空間/モダニズムを住む:住宅・家具・デザイン

神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]
会期:2009年5月30日~9月6日
パナソニック電工汐留ミュージアム[東京都]
会期:2009年7月4日~9月27日

坂倉準三展がはじまる。しかも、同時期に二つの場所で、二部構成という形で。神奈川県立近代美術館では、図面、写真、模型、資料など200点からモダニズムに迫り、パナソニック電工汐留ミュージアムでは、主に住宅と家具に焦点を当てるという。ル・コルビュジエの弟子である坂倉準三を振り返り、今日的意義を探るという企画展。場所の離れた二カ所で開催ということは、かなりの展示物があるということだろう。新たな坂倉像がどう見えてくるのか、期待したい。

2009/04/30(木)(松田達)

カンポ・バエザの建築

会期:2009/06/25~2009/08/29

ギャラリー・間[東京都]

クライン・ダイサム・アーキテクツ展に続いて、カンポ・バエザ展が、ギャラリー間で開かれる。マドリッドを中心に活躍する建築家カンポ・バエザは、《グラナダ銀行》(2001)などいくつかの作品で知っていたが、実際のところその活動の全貌については、特にここ最近知ることがなかった。しかしミニマルでシンプルな空間に、光を効果的に用いる建築家として、ずっと気になる建築家であった。多分、スペインではもう大御所建築家ではないだろうか。日本では初めての彼の展覧会ということで、どのような展示になるか楽しみにしている。

2009/04/30(木)(松田達)

金沢アートグミオープニング企画展「村野藤吾×山本基展」

会期:2009/04/13~2009/07/12

金沢アートグミギャラリー(北國銀行武蔵ヶ辻支店3F)[石川県]

金沢アートグミのオープニング企画展。北國銀行武蔵が辻支店は、村野藤吾による1932年竣工の建物。実は近江町市場北西部分の再開発にともない、13m移動し改装された。その3階のギャラリーにて、村野のいくつかの図面と、金沢在住のアーティスト山本基による作品「桜」が展示された。個人的は、現在の三つの尖塔アーチの開口部ではない、村野の別案の図面が見られたことが興味深かった。非対称なファサードもあったが、採用されなかったのであろう。山本の展示は、床一面に桜の花びらが散った様子をすべて塩で作るもの。驚くほどの花びらの量で、一瞬目を疑う。ちょっとでも触れたり、何かが落ちてしまったりしたら壊れてしまうはかなさが、独特の緊張感を生み出していてよかった。山本は、21世紀美術館の長期インスタレーションルームでも、同じく塩による「迷路」という作品を展示している。

2009/05/03(日)(松田達)

2009年05月15日号の
artscapeレビュー