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ニューヨーカーが魅せられた美の世界──ジョン・C・ウェバー・コレクション

2015年11月01日号

会期:2015/09/15~2015/12/13

MIHO MUSEUM[滋賀県]

アメリカ人の美術収集家ジョン・C・ウェバー氏のコレクションによる展覧会。会場は、メトロポリタン美術館寄贈ウェバー・コレクション、レンブラントのエッチング、中国陶器、朝鮮絵画、日本の仏教画・書、日本の陶磁器・漆工・ガラス、日本の染織の7会場で構成され、およそ160点の美術品が展示された。
なかでもとくに印象に残ったのは、日本の近世の絵巻物と近代の染織品である。菱川師宣筆《吉原風俗図巻》は全長およそ1,761センチの大作。展示はそのうちの一部だけとはいえ、誰もが惹きつけられる吉原という主題に加え繊細で表情豊かな人物描写が魅力的である。客が格子で遊女を品定めしたり宴会で歌舞に耽ったり遊女と睦み合ったりする姿から、調理人が台所で魚をさばく姿や使用人が衣装を繕う姿まで人々のさまざまな姿が生き生きと描かれている。《源氏物語歌合絵巻》は小絵とよばれる幅15センチの小型の絵巻物。源氏物語の登場人物の和歌と詠み人が歌合形式で配置されている。人物たちの品よく目を伏せた表情や精緻に描き込まれた調度品の模様、流れるような女性の黒髪が優雅で美しい。絵巻物とは対照的に、大胆でグラフィカルな表現が目を引くのは昭和初期の銘仙の着物である。銘仙といえば当時は庶民の日常着。使用感もなくこれほど良好な状態のものが20点以上もまとまって保存されているのは珍しい。いずれも、身丈150センチほどの大きさの着物を画面に抽象的な表現のモチーフや幾何学模様が伸びやかに配置されている。合成染料の彩度の高い色合いも強烈だ。《ミッキーマウス模様捺染一つ身綿入れ長着》は、ミッキーマウスが最初に公開された1928年の数年後に最新技術のローラー捺染機を使って製造された、当時としては最先端をいく一着である。子ども向けということもあって比較的小さな柄だが、絣(かすり)調にもかかわらず歪みなく正確に織り上げられたミッキーマウスの顔が大衆品レベルの技術の高さを示している。
個人コレクションの醍醐味は、なんといっても系統よりも収集家の趣味嗜好によるところだろう。絵巻物から銘仙まで、意表をつく品揃えには日本美術に対する収集家の情熱が感じられた。[平光睦子]

2015/09/20(日)(SYNK)

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