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古代エジプト美術の世界展 魔術と神秘 ガンドゥール美術財団の至宝

2015年11月01日号

会期:2015/10/06~2015/11/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

スイス・ジュネーブで活動するガンドゥール美術財団が所蔵する古代エジプト美術コレクションから、大小の彫刻、石碑、レリーフ、アミュレット(お守り)など、いずれも日本初公開となる約150点を古代エジプト人の生活・信仰・精神世界の視点から「魔術と神秘」を主題に「ヒエログリフの魔術」「素材の魔術」「色の魔術」の三つの章に構成して展示している。松濤美術館でのエジプト美術の展覧会は初めてとのこと。展示室はいつもと違った雰囲気になっている。展示の監修は、ニューヨーク・メトロポリタン美術館、ブルックリン博物館を経て現在はガンドゥール美術財団の考古美術部門長を務めているロバート・スティーヴン・ビアンキ博士。展示パネル、図録のテキストは丁寧に書かれていて、(筆者のように)古代エジプト美術になじみのない者にも、動物を模った神の姿、素材や色彩の意味がわかりやすく解説されている。展示品には多数のアミュレット(護符・お守り)が含まれている。そのサイズは小さいものでは1センチ前後、大きいものでも数センチ。図録にはその写真が大きく引き伸ばされているのだが、写真を先に見てしまうと実物がそれほど小さいものとは信じられないほど精緻に細工されている。素材は金や銀などの貴金属、貴石、あるいはファイアンス(陶器)。これらの品々が3000年から4000年前(日本では縄文から弥生時代にあたる)につくられたことを思えば、古代エジプト文明の技術力と造形力の高さに感嘆させられるばかり。2階展示室にはミイラの木棺や花崗岩や石灰岩の大きめの彫刻が展示されている。なかでも《ホルエムアケトの人型の棺》はかつてイヴ・サン=ローランのコレクションだったという興味深い来歴のものだ。レバノン杉から彫り出された棺は現在は木の地のままだが、かつてその顔は金箔で覆われていたらしい。どのようにしてサン=ローランの手に渡ったのだろうか。
 ヒエログリフ、動物神、さまざまな儀式を描いたレリーフに見られる独特のイメージは、貴金属としての価値、あるいは歴史的、骨董的価値や知識を知らなくても、ヨーロッパの人々(もちろん日本人も)を魅了してきたことは想像に難くない。本コレクションを所蔵するガンドゥール美術財団の創設者ジャン・クロード・ガンドゥール氏もまた幼少の頃からその魅力に取り憑かれ、コレクションを形成してきたという。ガンドゥール氏はオイルビジネスで財をなしたスイスの実業家で、『Forbes』誌によれば2015年には世界894位の億万長者となっている(スイスでは20位)★1。2010年に設立された財団には古代エジプト美術を含む考古美術部門の他に、戦後ヨーロッパ絵画、中世から近代までの工芸がコレクションされているという。
 東博で開催されたエジプト展(クレオパトラとエジプトの王妃展、2015/7/11~9/23)や森アーツセンターで開催されているエジプト展(国立カイロ博物館所蔵 黄金のファラオと大ピラミッド展、2015/10/16~2016/1/3)と比べると、本展はプロモーションの点でやや地味な印象があるが、先に巡回した北海道立旭川美術館では3.5万人、福井県立美術館では7万人近い入場者があったとのこと。松濤美術館展のあとは、群馬県立館林美術館に巡回する(2016/1/5~3/21)。[新川徳彦]


地下1階展示室


2階展示室

★1──Jean Claude Gandur - Forbes URL=http://www.forbes.com/profile/jean-claude-gandur/

チラシクレジット=(c) Foundation Gandur pour l'Art, Geneva, Switzerland. Photographer: Sandra Pointet 

2015/10/05(月)(SYNK)

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