artscapeレビュー
竹中工務店400年の夢 ──時をきざむ建築の文化史──
2016年06月01日号
会期:2016/04/23~2016/06/19
世田谷美術館[東京都]
世田谷美術館の「企業と美術」シリーズ。これまでに資生堂、 島屋、東宝スタジオが取り上げられ、4回目となる今回の主題は総合建設会社の竹中工務店だ。近代建設業としての竹中の創立は14代竹中藤右衛門が神戸に進出した1899年(明治32年)だが、神社仏閣の造営を業として初代竹中藤兵衛正高が名古屋で創業した1610年(慶長15年)が「400年の夢」の所以だ。
これまでのシリーズ同様に単なる企業史展ではない。総合建設会社を扱っているが建築展でもない。企業活動とその結果生み出されてきたものを、文化の文脈において見てみようという試みだ。展示は以下の8つのテーマで構成されている。「はじまりのかたち」は、竹中の大工棟梁時代の作品や大工道具などの資料を展示する。歴史を扱っているようにも見えるが、技術やものづくり精神の継承が主題。「出会いのかたち」は劇場やホテル、商業施設など、非日常空間の建築。「はたらくかたち」は、ホワイトカラーのための空間、すなわちオフィスビル。「夢を追うかたち」では、南極観測用施設や東京タワー、東京ドームなど、技術的挑戦となった建築物が紹介される。「暮らしのかたち」は、個人の生活と関わる住宅と病院。「感性を育むかたち」は、学校建築、美術館、博物館。「時を紡ぐかたち」では、古い建築物の修復や復元の仕事を中心に取り上げている。最後は「これからのかたち」。風に揺らぐオーガンジーのカーテンが掛けられた空間には、人の動きに反応するインタラクティブな映像と音と香りを発生させる装置が仕掛けられている。
展示物はそれぞれのジャンルを代表する建築の図面や写真、模型のほか、竣工式の招待状や商業施設の定期刊行物、あるいは南極観察用施設の鉄扉(実物!)、東京ドームの屋根シート、東京タワーに使われたリベットや入場券など、ふつうの美術展・建築展ではあまり見かけないようなディティールに及ぶ。メインとなる展示室の壁面には18メートルに及ぶ長大な年表があり、その下のケースには各時代の代表的な建築物の竣工記念絵葉書やパンフレットが並ぶ。「これらを並べていくことによって、印刷技術、色彩感覚、タイポグラフィなどが物語るデザイン感覚のグラデーションが浮き上がってくるのではないかと期待している」とのこと(橋本善八「『竹中工務店400年の夢』展覧会ノート」本展図録、247~8頁)。
さらに展示では竹中が手がけた建築と関わる絵画や写真が紹介されている。たとえば佐伯祐三《肥後橋風景》(1926-27)には《大阪朝日新聞社》(1926)の社屋が描かれ、小出楢重《街景》(1925)、石井柏亭《中之島》(1928)は、《堂島ビルヂング》(1923)上層階からの眺望。アドバルーンが上がる東京・数寄屋橋の風景を俯瞰する鈴木信太郎《東京の空》(1931)は《東京朝日新聞社》(1927)の4階応接室から描かれたものだそうだ。1935年(昭和10年)までに竹中が手がけたオフィスビルには、都市のシンボルとなるものが多かったという。そしてそのころに画家たちは新しい都市のダイナミズムの象徴としてこれらの建築を描き、あるいはビルから見える都市の姿を描いたということになろうか。
今回の展覧会では世田谷美術館のいつもの企画展示と入口と出口の位置が逆になっている。入口正面には海藻を練り込んだ土壁が設置され、ほのかに海の香りが漂う。出口には長い木の渡り廊下がしつらえてあり、ここでは木の香りに包まれる演出だ。[新川徳彦]
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