artscapeレビュー
メディチ家の至宝 ルネサンスのジュエリーと名画
2016年06月01日号
会期:2016/04/22~2016/07/05
東京都庭園美術館[東京都]
日伊国交樹立150周年を記念して開催される展覧会のひとつ。イタリア絵画を紹介する展覧会がいくつも企画されているが、本展はルネサンス文化発祥の地、フィレンツェに300年に渡って君臨し、芸術のパトロンであったメディチ家に焦点を当て、フィレンツェ・ウフィツィ美術館(銀器博物館)などのコレクションから彼らの肖像画と宝飾品のコレクションを紹介する展覧会。
フィレンツェで商業と銀行業で富をなした老コジモ(1389-1464)、痛風病みのピエロ(1416-1469)、ロレンツォ豪華王(1449-1492)らが同時代の芸術家たちを支援したことは言うまでもないが、他方で彼らは古代ギリシア・ローマのコイン、メダル、彫玉(カメオ、インタリオ)などのコレクターであった。彼らはこれらのコレクションを書斎に飾り、訪れる賓客、美術家たちに見せ、美術家たちはそれを写したり、絵画のモチーフに活かしたと考えられるという。彼らは古代の彫玉を貴金属のフレームで飾り、破損したカメオを金細工で補修し、また同時代の工芸家たちに新しい作品を作らせた。こうした経緯から、本展に出品されている宝飾品は年代別ではなく、蒐集者の視点で構成されている。作品を見るときは制作年代に注意が必要だ。
アーニョロ・ブロンズィーノ(1503-1572)など同時代の著名な画家に依頼して描かれた肖像画は美術品であると同時に一族の歴史を物語る資料だ。ルイジ・ファミンゴ作と推定されているロレンツォの肖像は宝飾品を身につけていない。共和制の都市フィレンツェで、初期のメディチ家の人々は事実上の支配者としての地位を固めつつあったが、形式的には市民であり、商人の伝統に従って、通常は質素な服装で過ごしていた。宝飾品は富を象徴するコレクションであっても、権威を示す用途で身につけられた訳ではないらしい。老コジモの父、ジョヴァンニ・デ・ビッチ(1368-1429)が遺した「公衆の目の届かないところにとどまっていなさい」という言葉に従ったのだろうか。しかし、16世紀以降、君主となったメディチ家の人々にとって、宝飾品は重要な役割を果たすようになったという。とりわけ、メディチ家の女性たちの肖像は膨大な数の宝飾品を身につけている。なかでもフランス王アンリ2世妃となったカテリーナ・デ・メディチ(1519-1589)の肖像に描かれた宝飾品の数々──とくに無数の真珠──には圧倒される。
残された財産目録によってメディチ家の人々が所有していた宝飾品が知られている一方で、肖像画に描かれたジュエリーで現存するものはほとんどないと聞いた。持ち主の経済的な危機において貴金属類は換金され、また衣裳に縫い付けられた宝石類には解体、再利用されたものも多いという。[新川徳彦]
2016/05/23(月)(SYNK)