artscapeレビュー
藤田嗣治天井画 特別展示
2017年09月01日号
会期:2017/08/11~2017/08/29
迎賓館赤坂離宮本館[東京都]
赤坂の迎賓館で藤田嗣治の天井画が公開されるというので見に行く。この情報を知ったのはもう予約が締め切られたあとなので、開門の朝10時前に正門前に駆けつけてみると、すでにかなりの人だかり。団体客のようだ。西門に移動し、セキュリティチェックで30分ほど待たされてようやく入場できた。迎賓館に入るのはもちろん、建物を見るのも初めてだ。思ったより大きいが、まるで西洋の宮殿のコピー。と思ったら、よく見ると屋根に鎧兜をまとった戦国武将の彫刻が載っていて、かなりキッチュだ。設計はジョサイア・コンドルに学んだ片山東熊。奈良博や京博の本館、東博の表慶館も彼の設計だ。館内に入ると、壁や柱には触れないようにとのお達しで、築100年以上たつのに壁は不自然に真っ白。数百年の歴史をもつ西洋の宮殿に比べれば青二才といった趣で、ホンモノなのにフェイク感が漂っている。
藤田の天井画は、1935年に銀座の洋菓子屋コロンバンの天井を飾るために描かれたもので、計6点ある。戦時中は戦火を逃れるために運び出されて保管されていたが、1975年に迎賓館に寄贈されたという。今回は本館の3室に分散され、いずれも天井ではなく白い仮設壁に掛けられている。大きさは各150号くらいだろうか、のちの《アッツ島玉砕》よりひとまわり小さい。主題は田園で2、3人の人物や天使が戯れるという甘美な、というより陳腐なもの。いずれにせよパリ時代の乳白色の裸婦に比べれば明らかに精彩を欠いており、60年を超す画業のなかでも最悪の作例だと思う。もしこのあと藤田が戦争画を描かなかったら、20年代にパリで狂い咲いたものの、帰国後はパッとしない陳腐な画家としてフェイドアウトしていたかもしれない。おそらく藤田もそれを自覚し、危機感を抱いていたはずで、だからこそ戦争画に活路を見出したのではないか。館内には小磯良平の作品も2点あって、それぞれ美術と音楽を主題にしたもの。小磯は戦争画だろうがバレリーナだろうが、なにを描かせても似たようなタッチで同じような完成度で仕上げてくる。藤田とはえらい違いだ。
2017/08/17(木)(村田真)