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KYOTOGRAPHIE 2018 小野規「COASTAL MOTIFS」

2018年05月15日号

会期:2018/04/14~2018/05/13

堀川御池ギャラリー[京都府]

白い巨大な壁が、海と陸地を隔て、自然と人間の住む世界のあいだに境界線を築いていく。その真新しい白さと屹立する巨大さが、風景のなかで異物感を際立たせる。小野規は、東日本大震災後、岩手・宮城・福島各県の沿岸部に建設されつつある、高さ10m以上、総延長400kmにおよぶコンクリートの防潮堤を2017年夏に撮影した。

広大なスケール感と幾何学的構成美を兼ね備えた小野の写真は、現在進行形で建設中の防潮堤=壁のさまざまな側面を鋭く切り取っていく。波立つ海から住宅地や畑を分離し、自然/人間、海/陸の連続性を断ち切り、境界線を可視化するものとしての防潮堤=壁。漁港を要塞のように取り囲む幾何学的な形態の威容。住宅地のすぐ向こうに垣間見え、隣家との塀のような平凡さで向こう側の風景を遮断していく壁。なだらかな斜面に広がる畑の先に続く漁港と、その穏やかな眺望を視界から消していく壁。「日常のすぐ隣に侵入してくる防潮堤=壁」が、風景を「遮断」していく様が冷徹な眼差しで切り取られる。

また、海沿いの崖の隆起した地層と対比的に撮影された防潮堤は、湾曲/人工的な直線という視覚的対比を強調し、地層の湾曲にかけられた地圧すなわち地震の巨大なエネルギーを示唆する。黒ずんだ以前の防潮堤と、その何倍もの高さでそびえ立つ真新しい壁の対比は、技術力の誇示か、繰り返される自然災害に対する人間の無力さの証明か。さらに、このモニュメンタルな壁の幾何学的な色面、その「白」という色の虚無的な広がりが風景を消去していく様は、震災の記憶の忘却に対する暗喩的事態でもある。


小野 規「COASTAL MOTIFS, 2017-2018 (#9183, 岩手県大船渡市)」
© Tadashi Ono / Villa Kujoyama

KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭 2018 公式サイト:https://www.kyotographie.jp

2018/04/15(日)(高嶋慈)

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