artscapeレビュー
インベカヲリ★「理想の猫じゃない」
2018年05月15日号
会期:2018/04/04~2018/04/10
銀座ニコンサロン[東京都]
インベカヲリ★の今回の個展は、ここ数年神保町画廊ほかで開催された展覧会の出品作の集大成である。そこに展示された30点余りの作品を見て感じたのは、彼女の写真の世界が、まさに真似しようのない独擅場になってきているということだ。
黒いスーツにタイトスカートのOL風の女性が、路上でラーメンのどんぶりを抱えていたり、日本髪の女性がフルヌードで雑多なものが溢れる室内に立っていたり、赤いドレスの女性が、水を張った風呂に半ば体を沈めてクリームソーダを啜っていたりするシチュエーションは、普通にはまずありえないものだ。そんな場面を撮影すれば、大抵はシュルレアリスム的な異化効果が生じるだろう。ところが、インベの写真を見ていると、それらがまったくリアルな、「ありそうな」状況に思えてくる。なぜそうなるのかといえば、彼女がモデルたちと話しながら決めていくという場面設定が、ほぼ完璧だからに違いない。むろん最終的にシャッターを切るのはインベ自身だから、彼女のこう撮りたいという確信が、ただならぬ精度に達しているということでもある。ここ数年、彼女の占い師的な察知能力には、さらに磨きがかかってきているようだ。
結果的に「あなたはなぜあなたになったの」という問いかけの答えとして設定された場面は、不気味なほどリアルに、その人が持つ「独特な言葉や価値観」の表現として成立することになった。彼女の写真を見ていて、だんだん怖くなってくるのは、ここまで「私」が剥き出しになってしまうと、それ以上さらけ出すと危険な領域にまで達してしまうではないかということだ。とはいえ怖いもの見たさで、その先も見て見たい気もしてくる。残念だったのは、赤々舎から出る予定だった2冊目の写真集が、展覧会の会期には間に合わなかったこと。ぜひ早めに刊行してほしい。なお、本展は5月7日~16日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2018/04/05(木)(飯沢耕太郎)