artscapeレビュー

瀬戸正人「Silent Mode 2018」

2018年05月15日号

会期:2018/04/02~2018/04/08

Place M ミニギャラリー[東京都]

2月5日~11日に、Place Mのメインギャラリーとミニギャラリーの両方を使って開催された瀬戸正人の「Silent Mode 2018」展を見逃してしまっていた。だが、今回ミニギャラリーで開催されたダイジェスト展を見ることができたので、この新シリーズについて書いておきたい。

第21回木村伊兵衛写真賞受賞につながった前作の「Silent Mode」(1996)は、電車の車内の乗客を、コンパクトカメラのシャッター音を消した「サイレントモード」で、至近距離で撮影したポートレートのシリーズだった。今回の「2018」ヴァージョンは、クローズアップの正面向きのポートレートというスタイルは踏襲しながら、野外で10分ほどの長時間露光で撮影している。当然、モデルたちは「撮られている」ことを意識しているわけで、無意識の表情や身振りを引き出そうとした前作とはまったくアプローチの方向性が異なる。長時間露光によって、表情は曖昧なまま凍りつき、髪の毛は風に揺らいでブレている。そのような偶発性を組み込みつつ、よりエモーショナルな要素を強めて、人間の存在の不安定さを定着しようとした、意欲的なポートレートのシリーズと言えるだろう。

むろんまだ途中経過であり、数が増えていくとともに、シリーズ全体がどんなふうに見えてくるかは不確定だ。また、なぜ女性のみを被写体にしているのか、モノクロームでよかったのかどうかもまだわからない。だが、旧作をあらためて見直し、再構築するという営みは、瀬戸のような長いキャリアを持つ写真家にとっても、重要な意味を持つのではないかと思う。展覧会や写真集として形をとってくるのが楽しみだ。

2018/04/02(月)(飯沢耕太郎)

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