artscapeレビュー

ふじのくに⇄せかい演劇祭2018

2018年05月15日号

会期:2018/04/28~05/06

静岡芸術劇場ほか[静岡県]

ゴールデンウィークは恒例になってきたふじのくに⇄せかい演劇祭に出かけた。静岡芸術劇場で上演された「ジャック・チャールズ vs 王冠」は、俳優ではなく、本人が何度も刑務所入りした生涯を振り返りながら、オーストラリアにおける先住民の児童隔離政策の歴史をあぶりだす。本人役ゆえの説得力はあるが、逆に演劇としてはやや単調な印象も受けた。まちなかで展開するストレンジシードのプログラムとしては、市役所ステージを使うままごとと、札の辻をステージとした壱劇屋を部分的に鑑賞した。前者は通常観客を座らせる階段側の上部のほうを舞台にしていたのが興味深い。移動中に周辺をうろうろと歩くと、リノベーションによるおしゃれなお店をいくつか発見したが、これぞまちなか展開の醍醐味である。建物の中でじっと演劇を凝視しても、街に対する新しい出合いはないが、ハコを飛びだすと、街も変わって見えるし、これがなければ気づかなかった場所に足を運ぶ。

ビルの2階の閉鎖されたレストランフランセを活用した「大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ」は、小さな部屋に同じ背丈の巨体と痩身の女が登場し、二人の激しい会話を透明な壁からのぞき見るようなメキシコの演劇だった。これはストーリーがどうのこうのというよりも、緩急の展開と喜怒哀楽の振幅が圧倒的な迫力で突き刺さり、忘れがたい体験になった。そしてトリは、やはり宮城聰の「マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険〜」である。フランスのアヴィニョン演劇祭に招聘された作品で、前から観劇したいと思っていたが、ようやく実現した。これはインドの叙事詩が、もし日本の平安時代に伝搬していたらという想定のもと和様化に挑戦し、前衛性と大衆性が見事に融合した作品である。観客席を囲む円環状の舞台は、橋懸かりの変形のようにも見えるが、何よりも舞台の奥行性をなくし、リニアに連なる役者の配置と移動をもたらす。当然、演者がぐるぐるまわる場面もあった。駿府城公園の樹木に大きく映る影も美しい。

2018/05/06(日)(五十嵐太郎)

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