artscapeレビュー
植田真紗美「Microcosmos」
2023年05月15日号
会期:2023/03/28~2023/04/09
Koma gallery[東京都]
植田真紗美は日本写真芸術専門学校卒業後、2013年から仲間たちと写真誌『WOMB』を出版したり、写真集『海へ』(trace、2021)を刊行したりといった活動を続けてきた。今回東京・恵比寿のKoma galleryで展示したのは、ずっと続けているスナップ写真の成果である。被写体がくっきりと形をとり、何を見せたいのかが明確だった『海へ』の写真群と比較すると、今回はより曖昧で不分明な日常の領域へと、「写真を手がかりにして」踏み込んでいこうという思いが強まってきている。自分の写真家としての原点をもう一度確認することをめざす仕事ともいえるだろう。スライドショーを中心とした展示構成も、自己主張よりは自己確認にふさわしいものだったのではないかと思う。
そうやって見えてきた植田の写真の世界は、光、影、イルミネーションなどに抽象化された世界と、より具体的に被写体との遭遇の手触りを確かめようとする試みとの二つに、大きく分裂しているように見える。今のところ、その分裂を再統合していくための手がかりを、まだうまく掴みきってはいないようだ。だが、このような試行錯誤を続けていくことで、何かが見えてくるのではないだろうか。展覧会に寄せたコメントで、植田は「さまよいながら、写ったものと真っ直ぐに向き合い続けることからしかはじまらない」と書いていた。たしかにそのような気配を感じさせる写真が何枚かあったが、スライドショーの形だと、その意図はなかなか伝わりにくい。最終的には写真集にまとめるような道筋をつくっていくべきではないだろうか。
公式サイト:https://www.komagallery.com/%E8%A4%87%E8%A3%BD-past-2022
2023/04/06(木)(飯沢耕太郎)