artscapeレビュー

高﨑紗弥香『巡礼』

2023年05月15日号

発行所:月曜社

発行日:2023/05/10(水)

高﨑沙耶香は前作の写真集『沈黙の海へ』(アダチプレス、2016)で、日本海から太平洋沿岸にかけての山岳地域を43日間かけて縦断し、そのときに撮影した写真群を、静謐で張りつめた画像の集積として発表した。今回写真集にまとめられた「巡礼」シリーズは、12年にわたって1年の半分ほどの時間を過ごしている長野県と岐阜県の県境の御嶽山の山小屋近くの水辺で撮影したものである。

自らの身体移動の感覚が刻みつけられた前作と比較すると、本作では、被写体を「見つめる」という行為の積み重ねによる時間の厚みを感じとることができる。主に写しているのは、季節の移りゆきとともに絶え間なく変容し、姿を変えていく水面である。その光と影と色味と質感とが織りなす、精妙かつ繊細な変幻の様相は、見飽きるということがない。

だがそれは同時に、水面を見つめ続ける高﨑の内面を映し出す鏡のようにも見えてくる。内と外との照応関係が、ときに細やかに、ときにダイナミックに90点の写真に形をとっている。今回はテーマを絞り込んだ写真集だが、高﨑の御嶽山での視覚的経験は、決してこのシリーズだけで完結するものではないはずだ。さらに多様な形で発表していくべきではないだろうか。

なお、鈴木成一の端正なデザインによる写真集の刊行に先行して、静岡県三島市のGALLERYエクリュの森で、出版記念展として「巡礼 JUNREI」展(5月1日~10日)が開催された。

2023/05/07(日)(飯沢耕太郎)

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